#  このCD2011海外編#01

『Samuel Blaser/Consort in Motion』
text by 伏谷佳代


kind of blue;KOB10046

Samuel Blaser (サミュエル・ブレーザー; tb)
Russ Lossing (ルス・ロスィング; p)
Thomas Morgan (トーマス・モーガン;db)
Paul Motian (ポール・モーシャン;dr)

1. Lamento della Ninfa(Monteverdi/ arr. Blaser)
2. Reflections on Piagn’e Sospira(Blaser/Monteverdi)
3. Reflections on Toccata(Blaser/Monteverdi)
4. Passacaglia(Marini/arr. Blaser)
5. Ritornello(Monteverdi/arr. Blaser)
6. Si Dolce e l’Tormento(Monteverdi/arr. Blaser)
7. Baletto Secondo-Retirata(Marini/arr. Blaser)
8. Reflections on Vespero della Beata Vergine(Blaser/Monteverdi)
9. Il Ritornello d’Ulisse in Patria-Atto Quatro, Scene U(Monteverdi/arr. Blaser)

録音:2010年12月29日@Water Music, Hoboken, N.J, USA
プロデューサー:Robert Sadin(ロバート・サディン)
エンジニア:Dave Darlington(デイヴ・ダーリントン)

現代を極めれば極めるほど古典が充実する

サミュエル・ブレーザーはスイス生まれ、ニューヨークで頭角を現し、現在はベルリンに居住するトロンボーン奏者である。別名義のクァルテットによる新譜『Boundless』(hathut)を聴き、その舵取り、要所要所での支柱の建て方も巧みなコンポジションに、まだ30歳を超えたばかりだということが信じ難かったものだが、本作でその想いを一層強くし、今後の活躍にもますます期待する。
若さに任せたグルーヴではない。衝撃的なインパクトを刻みつけるわけでもない。しかし時流とは別次元の、確かな質への手ごたえがある。曲はすべて17世紀のイタリアン・バロック-----モンテヴェルディ、マリーニ、フレスコヴァルディ-----から採録され、それらをかみ砕き、要素を損なうことなくジャズや現代的な奏法と取り合わせる。原曲を活かしてアレンジに重きを置いたものあり、原曲から自由にイマジネーションを得た自作あり。作曲者4人の個性の敷衍、その拮抗である。まず下敷きになっているバロック作曲家たちが、揃って弦楽器のヴィルチュオーゾであり、オペラなどにも業績を残した、メロディライン顕著な面々という点に注目。「うた」が主流となるとき、メロディ楽器以外のドラムとピアノがどう語るか。逆に管と弦はどう既聴感から外れるか。欧米では市民権を得ているチェンバー・ミュージック的な、いわゆるアンサンブルの妙を活かした編成には違いないが、すべてをオリジナルで行う場合より格段に高い琴線を要しよう。滋味たっぷりに、メロディとコード進行の運動性を同時に解き放ちつつ、音楽は刻々とスライドしてゆく。「古典を踏まえたうえでの現代」という生真面目な常識とは逆ベクトルの、「現代を極めれば極めるほど古典が充実する」という欧米のラディカルに共通するパラダイム-----その顕著な一例である。

こうした開かれた空気のもと、複数名義によるコンポジションは自由に飛翔し、ふっと現れては消失する。その立ち昇りの自然さは時空も含めた各種の領域を跨ぐ。4人のプレイヤーが、音を出した後の「含み」で雄弁に語れるアーティストたちであることもアルバムの完成度に貢献している。音への老練ともいえるセンス、切り口の多彩さにおいては実年齢も国籍も関係がない。バス音を二段に担って音楽を挟み撃ちするかのようなブレーザーとモーガン、スポーティな打鍵ながら扇情的な香気を失わぬロスィングのピアノ、そして先日逝去したポール・モーシャン-----ひと言、コントロールの匠(たくみ)である。あらゆる一瞬は、あるべき生を全うしている。聴き手はその余韻の堆積を慈しみ、酔いしれる (伏谷佳代/Kayo Fushiya)。

≪関連リンク≫
http://www.samuelblaser.com/
http://www.kindofbluerecords.com/

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