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Vol.53 | キース・ジャレット                     1972 NY
text by Seiichi SUGITA

 中平穂積の新宿<DUG>を訪ねるのは『アウトゼア』創刊(1999年)以来だから、11年振りのこと。現在、店を仕切っているのは、息子のルイ。奇しくもウチの愛猫と同名ってなきっかけで、赤ワインも手伝ってすっかり和む。
 僕が20歳前後の頃、ジャズ喫茶と映画館がもうひとつの学校であった。渋谷は<DIG>、新宿も<DIG>である。そう、渋谷にも<DIG>はあったのです。百軒店の老舗<スイング>の斜め前が<DIG>。何故<DIG>かというと、ジャズが現在進行形の音楽であることを最もヴィヴィッドに感じられるから。つまり、一番のお目当ては、新譜。いわゆるアバンギャルドもオーソドックスなものも、分け隔てなく新譜は新譜として並べている。かつてジャズは、いつだってアバンギャルドであった。
 ぼくの記憶が正しければ、<DIG>の後に入ったのは<ブラック・フォーク>で、ジャズではなく、もっぱら新しいロックをかけていた。<DIG>の2階が<SAV>であったかしら。その次に代わったのが<音楽館>である。
 何故、渋谷<DIG>がなくなったかというと、きっかけはレコードが大量に盗まれたから。何とその手引きをしたのが、ぼくたちあこがれのウェイトレス。まあ、確かに<DIG>は、お宝の山ではある。
 興味深い(?)ことに、この界隈は、連れ込み旅館街(今でいうラブホ)の入口にあたり、個室お好み焼き屋が点在していた。
 新宿<DIG>は、ロールキャベツで有名な<アカシア>の上にあった。<アカシア>は、当時ジャズをかけていた。<DIG>の帰りにオーヴンで焼いたロールキャベツを食することは、最高の贅沢である。実は<アカシア>には、60年安保世代にとって、深い想いがあるのです。
 安保批准時、国会議事堂周辺を全学連の面々や労働者が埋め尽くす。ふりしきる雨。唄われたのは「インター」ではなく、西田佐知子の「アカシアの雨がやむとき__。あのバート・スターンの『真夏の夜のジャズ』が上映されたのもほぼ同時期のこと。
 “お楽しみはこれからだ”。ちょいと乱暴だけれども、ジャズも映画も面白くなるのは60年あたりからである。ジャズはフリーであり、映画はヌーベル・バーグである。「ジャズと自由は手をつなぐ」といったのは、セロニアス・モンク。「ジャズと映画」が手をつないだのである。アメリカではジョン・カサベテス『アメリカの影』(LDのライナーノーツはぼく自身によるもの)。フランスではマルセル・カルネ『黒いオルフェ』、ルイ・マル『死刑台のエレベーター』、ポーランドではロマン・ポランスキー『水の中のナイフ』、等々。
 “お楽しみはこれからだ”は、映画が初めてしゃべったセリフである。つまり、初のトーキー『ジャズ・シンガー』で聴く事ができるのです。
 ぼくのゴースト・ライターとしての最後の仕事は、淀川長治『天国へ持っていきたいアメリカ映画100(講談社)である。映画生誕100年(1995年)の企画で、ヨーロッパ篇、日本篇も発刊予定であったが、現実のものとなったのは、このアメリカ篇だけである。淀川長治が超ジャズ通(?)となっている。
 はたして、ゴースト・カメラマンなんていいようがあるかどうかは別にして、ゴースト・カメラマンのようなことを実はやったことがあるのです。『1973年 DIG Jazz Calendar』、『1974年 DIG Jazz Calendar』、『1973年 Funky Jazz Calendar』といったところ。
 DIGの中平マスターは、日芸(日本大学芸術学部)の写真学科出身。ジャズの写真をずうっと撮り続けている。吉祥寺「Funky」のマスター野口伊織は慶応経済学部出身。在学中はライト・ミュージック・ソサエティでサックス・ソロをとっていたと聞く。ふたりとも口惜しいけれどいい男で、DIGのマスターは、新宿<伊勢丹>の、Funkyのマスターは<ニッサン・ローレル>のモデルをやっている。前者の愛車はBMW。後者の愛車はランボルギーニ。参考になるかどうかは分からないけど、ぼくの愛車はBMW。何故かというと、ボブ・マーリーの愛車だったから。分かりますか?ボブ・マーリー&ウェイラーズ__。

 

__地方を旅すると、必ず<DIG>のような店がありますね。ぼくが生まれたのは新発田(新潟)の<Bird>なんて、びっくりしました。
「(笑)ああ、<Bird>はね、大工さんまで連れて来てね」
__柱時計が掛かっていれば、学生時代に<DIG>に通ったって証ですかね(笑)
 マスターはアンティーク時計のコレクターでもある。
 貴重なジャズ・カレンダーをお借りする。73年版にぼくの写真が載っているのは、セシル・テイラー(p、カーネギーホール)、ファラオ・サンダース(ts、ハーレム・マウント・モリス・パーク)、ミルフォード・グレイヴス(ds、スタジオ・リブビー、’72)、ギュンター・ハンペル(vib、スタジオ・リブビー、’72)。 74年版にはセシル・テイラー(p、ヤマハホール、’73)、ドン・チェリー(p-tp、ラジオ・シティ・ホール、’72)、ガトー・バルビエリ(ts、ブロードウェイ、’72)
with ドン・チェリー、キース・ジャレット(p、フィルハーモニック・ホール)、 ソニー・スティット(as、セントラル・パーク、’73)、アーチー・シェップ(ts、セントラル・パーク、’73)、マラカイ・フェイヴァース(b、セントラル・パーク、’73)、ノーマン・コナーズ(ds、セントラル・パーク、’73)が載っている。
 なかでも撮影に苦労したのは、1972年7月に撮影したキース・ジャレット。何せ、ニューヨーク・フィルの殿堂で、それもソロ・ピアノである。当然、撮影は禁止。ぼくはガールフレンドのバッグにニコンFと200mmをしのばせる。
 厳しい視線を一身に浴びつつも3カットをものにする。スロー・ジャッターが静寂を破る。シ〜ッ!!キース自身にも聴こえていたはず。
 没収されても仕方ないと、当然覚悟。3カットで済ませたせいか、結局はおとがめなし。彼女のお腹は妊婦のように膨らむ。
 ECMの『フェイシング・ユー』で、キースのソロ=インプロヴァイズド・ミュージックの洗礼をどっぷり浴びていたとはいえ、薄氷を踏む思いで、冷や汗ぐっしょり。まったく演奏は記憶にない。
__キースはどうだった?
「最高によく歌っていたわよ。ゴ・キ・ゲ・ン!!貴方は、とってもファニーだった。本当にベイビーできちゃったかもね」
犯罪の影に女あり!?
編集部註:画像は「DIG Jazz Calendar 1974」から転写したものです。

杉田誠一
杉田誠一:
1945年4月、新潟県新発田市生まれ。
1965年5月、月刊『ジャズ』、
1999年11月、『Out there』をそれぞれ創刊。
2006年12月、横浜市白楽に
cafe bar Bitches Brew for hipsters onlyを開く。
http://bbyokohama.exblog.jp/
著書に『ジャズ幻視行』『ジャズ&ジャズ』
『ぼくのジャズ感情旅行』。
http://www.k5.dion.ne.jp/~sugita/cafe&bar.html
及川公生のちょっといい音空間見つけた >>

♪ Live Information

8/01 Sun 金剛 進(ts) 林あけみ(p)
04 Wed 秋山一将(g,vo) 清水絵理子(p)
06 Fri 平山順子(as) 佐藤えりか(b)
07 Sat 佐藤綾音(as) 楠 真紀子(p)
10 Tue 望月 孝(perc,g,vo) 江口弘史(b)
13 Fri 佐藤綾音(as) 楠 真紀子(p) 落合廣介(b)
14 Sat 中牟礼貞則(g) 秋山一将(g)
15 Sun JUNマシオ&
イエロー・ジャズ・プロジェクト
16 Mon Ronnie(p,g) 貞吉なおこ(vo)
19 Thu 佐藤綾音(as) 楠 真紀子(p)
落合廣介(b)
20 Fri 平山順子(as) 佐藤えりか(b)
21 Sat 小島伸子(vo) 今村信一郎(p)
22 Sun 種子田博邦(kb) 蒲谷克典(cello)
27 Fri 佐藤綾音(as) 楠 真紀子(p)
小林航太朗(b)
28 Sat 金剛 進(ts) 林あけみ(p)
29 Sun ジャム・セッション:
名取俊彦(p) 仲石祐介(b)
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FIVE by FIVE 注目の新譜

NEW5.06 '13

FIVE by FIVE
#983『藤井郷子 Satoko Fujii New Trio/Spring Storm』(Libra Records=ボンバ) 悠 雅彦/ #984『ドヴォルザーク&ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲集/ユリア・フィッシャー』(デッカ=ユニバーサル)大木正純/ #985 『ギラ・ジルカ & 矢幅歩 SOLO-DUO/Breathing ...』(Jump World=Boundee)望月由美/ #986『Michael Reis/Hidden Meaning』(Double Moon)伏谷佳代/ #987 『奥平真吾 THE FORCE/Live At PIT INN〜I didn't know what time it was』(ピットインミュージック)望月由美/ #988『Alex Cline/For People in Sorrow』(Cryptogramophone)稲岡邦弥/ #989『キース・ジャレット|ゲイリー・ピーコック|ジャック・ディジョネット/サムホエア』(ECM=ユニバーサル)稲岡邦弥

COLUMN
巻頭エッセイ:丘山万里子:カデンツァVol.58「京都での朝の勤行」丘山万里子/ 連載フォト・エッセイ:音の見える風景Chapter27「竹内 直」望月由美/ 撮っておきの音楽家たち #61デュオ・アマル(ピアノ・デュオ)/ #62「ピエタリ・インキネン」(指揮者)林 喜代種/ カンザス・シティの人と音楽#36(EXTRA)「東洋と西洋のミックスした国マカオで出会った音楽」竹村洋子/ ニセコロッシ・コンサート・ツアー19(Niseko-Rossy Pi-Pikoe) / 及川公生の聴きどころチェック #162『小山太郎/ビート・ザ・ブルース』(M&I/ポニーキャニオン)/ #163『塩谷 哲/アロー・オブ・タイム』(ビクターエンタテインメント)

CONCERT/LIVE REPORT
#512「東京フィルハーモニー交響楽団第76回東京オペラシティ定期シリーズ/ミハイル・プレトニョフ/小川典子」伏谷佳代/ #513「マリア・ジョアン・ピリス&アントニオ・メネセス デュオ・リサイタル」伏谷佳代/ #514「エスペランサ・スポルディング〜ラジオ・ミュージック・ソサイエティ」神野秀雄/ #515「黒沼ユリ子 ゴールデン・アニバーサリー.コンサート」西松朝男/ #516 エグベルト・ジスモンチ & アレシャンドレ・ジスモンチ「ギターデュオ、ピアノソロ」神野秀雄/ #517「航プレゼンツKarl2000日本デビュー・ツアー」伏谷佳代/ #518「ブリュッヘン・プロジェクトT・U・V/フランス・ブリュッヘン&18世紀オーケストラ」伏谷佳代/ #519「ブリュッヘン・プロジェクト〜18世紀オーケストラ&新日本フィル 第2回」佐伯ふみ/ #520「上原ひろみ〜ソロBlue Note Tokyo' s 25th Anniversary Year Special Program」悠 雅彦/ #521「ポール・モチアン・トリビュート・コンサート」スティーヴ・バップ #522「第63回 藤井昭子〜地歌 Live」

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