Vol.12
自然と音楽 オーストラリアの友人から授かったもの




さて、本当の友達、真の友ができた瞬間であった。
真の友人になれた。オーストラリアの人々。アポリジニの人々。
三日間のコンサートの後、彼らの本拠地、生活の場所に連れて行ってもらった。
心を許した人以外は、行くことはできない場所。神聖なる空間。
これぞ、本当の音楽家の姿。大地の鼓動とともに生活している彼らの素朴な生き様。
日が昇ると目覚め、日が沈むと眠る。
太陽とともに生きる彼らのライフ・スタイル。
ここに音楽家本来の写し絵がある。人間本来の命の輝きがある。

音楽家として、彼らから教わったことは、たくさんある。

まず一つは。心技体、これがひとつである事。体を鍛えるのではない。ありのままに生きることが結果として体を鍛えてしまう。常にベースになっているのは安らかな心だ。その心と体が礎となって技が磨かれていく。

現代人は、体を鍛えるために色々な所作をする。やれ、ジョギングだ。ジムだ。  なんだかんだ・・・・。しかし、本来ありのままに生きていることで体は自然と鍛えられるものだ。

この自然さが、小ざかしい現代人には、難しい。

二つ目は、
楽器は演奏するものではないという事。生活の中から湧き出てくるものを、仮託して表現するツールに過ぎない。

だから、ディジュリドゥーは大地の息吹がそのまま体を駆け抜ける。
ディジュリドゥーとは、オーストラリア先住民アボリジニの木管楽器。シロアリに食われて筒状になったユーカリの木を使う・・・。

循環呼吸は当たり前のこと。人間が大地とともに生きれば、人間の息、呼吸が循環するのは当然のこと。

三つ目は、
曲を作るのではなく、音楽家という表現者を、自然や環境が、素通りしていく、その結果、曲が結果として生まれて来る。

オーストラリアの海岸線には、太古の古くからレゲエのリズムが存在する。  波打ち際の波の音が自然とレゲエを拵えた。・・・・レゲエは、キューバに限ったことではない。沖縄にもある。世界同時進行だと思う。

自然が織り成す環境によって音楽が創出される。

彼らに教わったことを基に、日本で始めた事。「景観変遷による音楽表出」。    なにやらタイトルがややこしいが、一言でいうと、景色が変わることを実感することによって音楽を生み出すこと。

このことは、千葉県立中央博物館と組んで展開した。
例えば、九十九里海岸は60キロある。この海岸線を歩いて500メーター毎に、海岸の砂を取ってビーカーに入れる。
すると、60000割る500で120本の砂の標本ができる。
私も、何度かこの60キロの海岸線を、素足で歩いたことがあるので、120本の標本をまじまじと眺めてみると、実感が伴う。
砂の大きさが違う。粒立ちが違う。貝殻の入っている量が違う。勿論、色も違う。標本を見ているだけで、各々の海岸線の情景が浮かぶ。
そして、120本の標本に曲をつけて、120曲の組曲にした。この組曲は、博物館に上梓してある。・・・「景観変遷による音楽表出」。お分かりいただけただろうか。

もう一つ例を挙げると、
九十九里という海岸線はご存知の通り今は侵蝕されている。しかし、かつて江戸時代は、信じられないかもしれないが、土地が増えていた。海に向かって土地が伸びていた。
江戸約250年の間に、480メーター、大まかに言うと、一年間に2メーターの計算だ。そんなバカなと思うでしょ。これが本当なんだ。どうして、証明出来るかって・・・・。
地質学者は、地質を詳細に調べるとかつて海であったか(いつごろ海であったか・・)どうかすぐにわかるという・・・。 歴史地理学者は、戸籍によって調べが付くという。現に、もともとの網元はかなり内陸にある。つまり、海岸線の際にいた網元が、土地が増えることによって内陸になってしまったという事。
鰯を獲ることを生業にしていた漁師は、魚の獲れない不漁期(獲れない時は10年以上続く時もある)に、この増えた土地で、慣れない農業をやっていたという。なんと、逞しい。
漁師たちの、大変さも伝わってくる、大地から漁師たちの嗚咽が聞こえる。鍬を持った漁師たちの雄たけびが聞こえる。時空を超えてその声を聞くことによって、私は、曲が生まれる・・・。

自然と音楽のかかわり。自然とそれに伴う人間の生き様と音楽のかかわりの本質を教えてくれたオーストラリアの真の友人に感謝です。



高谷秀司(たかたに・ひでし)
1956年、大坂生まれ。音楽家、ギタリスト。幅広いジャンルで活躍。人間国宝・山本邦山師らとのユニット「大吟醸」、ギター・デュオ「G2us」でコンサート、CDリリース。最新作は童謡をテーマにしたCD『ふるさと』。2010年6月から約1ヶ月間、オーストラリアから招かれ楽旅した。
www.takatani.com

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