Vol.19
音楽と食文化
沖縄のミュージッシャンのエネルギーの源泉。
そして、ジャコへの弔い




さて、珍しく前号の続きである。

私は、沖縄にたくさんの恩人がいる。

JAZZの世界では前号にも記した与世山澄子(ボーカリスト)さん、香村英史(ピアニスト)さん。
さらに、ロック畑だと「紫」(ディープ・パープル以上にディープ・パープルらしかったバンド)
ブルーズ ロック 畑だとスピード、グルー&シンキ...彼らはウエストロード・ブルースバンドと並んで、日本のブルースの礎と言っても過言ではない。
パフォーマンスとして有名なのは、三段肩車...。
『Aサインバー』はいつも途方もない活気にあふれていた。

今では、山川貴代美 YAMAKO私は、しばらく彼女のバックバンドをやっていた...。とてつもない酒豪、元気の固まりみたいな人。
この活気の源泉は何だろう...。
常に疑問だった。
しかしこの疑問は解けた。
渡嘉敷島に楽団として始めて招聘されたとき。
凄い歓待を受けた。
大切な人を迎える時に、ヤギを丸ごとつぶして食べる。(地元の人はヤギのことをヒージャーと言う。)
これが、沖縄のミュージッシャンのエネルギーの源。

ヤギが食卓に並ぶまでの秘伝を明かしましょう。
まずは、ヤギを食べると言っても、ヤギを捕まえないと始まらない。私は、歓迎の名のもと、一緒に連れて行かれる。
山へ捕まえに行く。まーー野蛮なミュージッシャン達である。
生息しているポイントというのがあるから、そこを探す。うまそうなのを物色。捕まえるのは並たいていではない。原始人の感性がいる。
捕まえたら、後ろ足、前足をひっくくって木の枝に逆さづり。このときにヤギはかなりもがく。
「メェー メェー...」 やっぱりかわいそうな気がする。

次に、逆さづりにしたヤギを押さえて頚動脈を切る。血が滴る。バケツで受ける。血の入ったバケツに塩を入れてかき混ぜるのが私の役目だった。さすがにこれには閉口した。

血をすべて出し切ったら次は、海岸へもって行って毛を全部取るのである。一人が、ガスバーナーを持って、ヤギに火を吹きかける。もう一人が、牧草(アルファルファ)で焦げそうになったところや、焼け残った毛を取り去る。
おおむね餅つきの時の、キネをもって餅をつく人と、水をつけて餅を裏返す人という感じである。したがってタイミングが悪いと火傷をする。二人の息が合わないといけない。

約一時間ぐらいすると、うっすらと表面だけが焼けたヤギの丸焼きができるのである。とってもグロテスクだけど、ほんの少しかわいい...? 尻尾は波打ち際に持っていって、切り刻む。
大きなまな板が必要である。食べやすい大きさに切ってビニールの袋に入れていく。

大腸の柔突起には、未消化の食べ物(主に緑色の葉)や排泄物がたまっている、けっこう手間がかかる。細かい作業だからと思って女性にやらせようとするが、たいがいは、気持ち悪がってできないのである...。しかし、美声のボーカリストYAMAKOは平然と、まるで沖縄の母のようにやりこなしている。彼女の歌のおおらかさはこんなところから来ているのだろう...。

さあ、すべて切り刻み終わると、宿に戻る。

十升くらい入る大きな鍋に、切り刻んだヤギをすべて放り込む。  

(ただし睾丸だけは別にしておく。睾丸は、冷凍して生で食べる。冷凍は消毒のためである。舌触りがトロのようでめちゃめちゃうまい......)
少し大根を切って入れる。焼酎を三分の二升位入れて、後は水。レンガで組んだ竈に火おこしをして煮る。臭いを消すため蓬(ヨモギ)も放り込む。

小鉢に持って食べるが、臭いがとってもきつい。旅行でやってくる人は、半分位の人が食べられない。とくに、女性は、においに手をやく。
何でこんなうまいものを食べないのかと思う。
一度食べると、病みつきになる。一度作ると三日三晩はヤギばかりである。

たくましい沖縄のお母さん、ヤギの料理人、リズムのすばらしいボーカリスト YAMAKO(山川 貴代美)に脱帽。

沖縄の音楽のエネルギーの源泉に感謝...。

このエネルギーが、知る人ぞ知る名曲<The Goat Capricorn>(山羊座)を生んだ。

ジャコ・パストリアス に乾杯......。



高谷秀司(たかたに・ひでし)
1956年、大坂生まれ。音楽家、ギタリスト。幅広いジャンルで活躍。人間国宝・山本邦山師らとのユニット「大吟醸」、ギター・デュオ「G2us」でコンサート、CDリリース。最新作は童謡をテーマにしたCD『ふるさと』。2010年6月から約1ヶ月間、オーストラリアから招かれ楽旅した。
www.takatani.com

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