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『辛島文雄クインテット/サマータイム〜ライヴ・アット・新宿ピットイン』
text by 望月由美


ピットインレーベル
PILM-0001
2,500円(税込)

辛島文雄 (p)
池田 篤 (sax)
岡崎正典(sax)
楠井五月(b)
小松伸之(ds)

1. オール・ザ・シングス・ユー・アー(Jerome Kern)
2. ハウ・ロング・ハウ・デイス・ビーン・ゴーイング・オン(George Gershwin)
3. サマータイム(George Gershwin)
4. フライデー・ナイト(辛島文雄)
5. アロング・ケイム・ベティ (Benny Golson)
6. ラウンド・ミッドナイト(Thelonious Monk)

プロデユーサー:辛島文雄、品川之朗(ピットインミュージック)
エグゼクティヴ・プロデューサー:佐藤良武 (ピットインミュージック)
エンジニア:菊地昭紀 (ピットインミュージック)
PAオペレーター:藤村保夫(新宿ピットイン)
録音:2011年11月14日 新宿ピットインにてライヴ収録

 ピットインレーベルに新たなシリーズが発足した。従来の「Jシリーズ」(PILJ) は新宿ピットインでのライヴ・レコーディングに特化したものであったが、今回、ピットインミュージック専属アーティストのためのニュー・レーベル「Mシリーズ」(PILM)を立ち上げた。辛島文雄クインテットの『サマータイム』(PILM-0001)はその記念すべき第一作目にあたる。

 老舗「新宿ピットイン」が熱く燃えた昨年11月14日のライヴ録音である。残念ながらライヴの席には居合わせていなかったが当夜の辛島文雄クインテットは相当な気合が入っていたようでその熱気が直に伝わってくる。メンバーの5人、ピットインのスタッフ、そしてお客さんの全てが一体となってノリに乗った様子がリアルに収録されていて、ジャズはライヴにあり、という言葉が今でも活きているということをまざまざと伝えてくれる。
 辛島文雄はふだんピアノ・トリオとピアノ・ソロをメインに活動しているが、時々ワン・ホーンや2管をいれたグループでも演奏しており、本作はその2管編。フロントにサックス二人という編成はエルヴィン・ジョーンズを想いだす。デイヴ・リーヴマンとスティーヴ・グロスマンの2管は凄かった。ここでは池田篤と岡崎正典がその役を担っている。

 曲も(1)の<オール・ザ・シングス・ユー・アー>から(6)の<ラウンド・ミッドナイト>まで辛島のオリジナル(4)を除いてライヴの定番中の定番がずらっと並んでいる。この選曲からも辛島5の自信の程が窺える。この誰もが演奏するライヴ・セッションのスタンダード達を新鮮な辛島スタイルにしてしまい、メンバー全員の呼吸もぴたりと合っていて聴き応えがある。

 辛島文雄のピアノもいつもどおり、いやいつも以上に能弁だが折り目正しく曖昧さは全くなく明快そのもの。(1)でドライブのかかった火のように熱いソロを聴かせた後(2)では一転してしっとりとしたバラードを弾く。アルバム『ムーン・リヴァー』(VACM-1355)では格調高くバラードを弾いていたが、本作ではアット・ホームな雰囲気につつまれる。やはりピットインのグルーヴが漂うのである。また、辛島はバッキングでも的確にメンバーを鼓舞していて、辛島の誠実さがメンバーの牽引力になっている。
 アルト、ソプラノの池田篤は若いときのコニッツのように思慮深いフレーズでグループにピリッとした刺激をもたらし、岡崎正典のテナーも派手さをひけらかさず、太い音でじっくりとうたいあげる。
 また、楠井五月(b)と小松伸之(ds)の若いリズムの登用が実を結んでいる。マイルスがロン、トニーという若いリズムから活力を引き出して第2期の黄金のクインテットを創り上げたケースと同じように、辛島の強いリーダーシップによって若い二人が気迫のこもったリズムを刻み続けグループを推進している。脇目もふらず一直線にスイングする二人の懸命さがダイレクトに伝わってくる。正にエリントンの名言、スイングしなけりゃ意味ないね、を実感してしまうのである。
 全6曲を通して聴くと70分余、気合の入った演奏の連続で、ライヴのあとの快い疲労感を居ながらにして味わうことが出来る。

 大学在学中の1970年にはじめて「ピットイン」を訪れたという辛島文雄はその後ニューヨーク武者修行から帰国し、「ピットイン」の朝の部からプロとしてのスタートをきったという、およそ40年まえのことである。それ以来、永年にわたってピットインをホームグラウンドとして演奏している辛島文雄は書籍『新宿ピットイン』(晶文社)の中で“ピットインでピアノを弾くエネルギーがなくなったら俺はプレーするのはやめる”などと語っている。
 本アルバム『サマータイム』(PILM-0001)は数多くの辛島文雄の作品のなかでもジャズのエネルギーの密度の濃さという点で指折りに数えられる力作で、また数ある「Live at PIT INN」の中でも屈指の傑作と言える。(2012年5月 望月由美)

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