# 913
『Sunna Gunnlaugs/Long Pair Bond』
text by 伏谷佳代
| Sunny Sky728 |
Sunna Gunnlaugs (スーナー・グンラウグス; pf)
Thorgrimur Jonsson (ソルグリムール・ヨーンソン;bass)
Scott McLemore (スコット・マクレモア;ds)
1.Long Pair Bond (Gunnlaugs)
2.Thema (Gunnlaugs)
3.Autumnalia (Gunnlaugs)
4.Elsabella (McLemore)
5.Crab Canon (Gunnlaugs)
6.Fyrir Brynhildi (Jonsson)
7.Safe From the World (McLemore)
8.Diamonds On the Inside (Harper/arr. Gunnlaugs)
9.Not What But How (McLemore)
10.Vicious World (Wainwright/arr. Gunnlaugs)
録音:2011年6月27日@Salurin in Kopavogur, Iceland
エンジニア:Kjartan Kjartansson(キャルタン・キャルタンソン)
プロデューサー:Sunna Gunnlaugs/Scott McLemore
ミニマリズムの様式を超えてなお際立つ、凛冽でクリアな音色
アイスランドより届いた音色である。国が深刻な経済破綻を引き起こしたあとも、音楽シーンには不思議と影を落とさず、なおも熱い盛り上がりを見せる首都・レイキャヴィック。どちらかといえばロック寄りの情報が多いだろうが、1990年代にかのビョークがアイスランド・ジャズの大御所ピアニスト・Gudmundur Ingolfsson(グドゥムンドル・インゴルフソン)と組んで以降、ジャズ・シーンも注目されるようになったという。今日、ジャズを演る若手がアメリカで修行を積むことが多いのは万国共通。このスーナー・グンラウグスも例外ではない。そのピアノは、アメリカ・ジャズの複数のスター・ピアニストの影が見え隠れしながらも、独自の静寂に彩られた視覚喚起力をもつものだ。
暖気にふれて氷の輪郭がゆるむ-----そんな一瞬を思い起こさせる音色である。研ぎ澄まされていながら温(ぬく)い流動性、繊細な響きをもちながらも芯が太い。「どこかで聴いたことがあるな」という既聴感とともに、すっと肌になじむような浸透がある。ビル・エヴァンスの控えめで高貴なリリシズムを感じるひともいるだろうし、骨太なアタックは実際モンク的である。しかし、常にちらつく複数要素には自然な統合がある。目立たないが、その澄んだ水のようなやわらかさこそがスーナーの個性であるといえるだろう。個性は灰汁の強さのみならず...それが静かに体現される。「北欧的な冷たい静けさ」などと称するのさえ不要に思える自然さで、ただ彼女の音楽があるのみだ。生活(=人生)から自然にでてきたような音楽。両者のあいだには乖離がない。自己のポエジーを確立した者だけがもつ落ち着きと無駄のなさである。
編成もごくオーソドックスなアコースティック・トリオ編成。ドラムスにパートナーでもあるScott McLemore、ベースにThorgrimur Jonssonを迎えている。曲もミニマリスティックで贅肉を削ぎ落としたものも数曲。例えば2.Themaは、わずか2コード進行。しかし、音数が少なくなるほどに実力を遺憾なく発揮するピアニストのようで、単音がもっともパワフルで存在感がある。空間を埋めるのに、単線のメロディだけで十分なのである。これに比してドラムスの音像は多彩であり、柔軟にピアノをサポートする。パーカッション機能ふたつ、として捉えられる瞬間もあり。もっともメロディックなのがベースであり、どちらかというと全体的に甘めのサウンドに、楽器がもつ朴訥な乾きの妙でうまく風穴を開ける。リピートが単なるミニマルな構造を超えて大きなうねりとなる5. Crab Canonでも同様。ピアノはあくまで歯車としての推進機能に徹しているのだが、決して単色に陥ることのない強靭な華やかさを有す。ヨーンソンのベースには、いかなるひと弾(はじき)にも含蓄があり、ピアノやドラムが外向的な華やぎに向かうときこそ、地に根を張るような引力を発揮する。高い音楽性に裏打ちされたキープ力。熱くなり過ぎぬ乖離感、とでもいおうか。かくしてインプロ部分も、クールながら多層で発揮される充実を生む。コンポジションは4曲がスーナー自身、アレンジを手掛けたものが2曲、メンバーが持ち寄ったもの4曲だが、どれも「トリオ独自のもの」としての自在な調和をみせる。ふたりの愛娘に捧げたという4. Elsabellaなど、そのシンプルで内省的な美しさも大きな余韻を残すものだ(*文中敬称略/伏谷佳代 Kayo Fushiya)。
*Interview #105
【関連リンク】
http://www.sunnagunnlaugs.com/
http://www.myspace.com/toggijonsson
http://www.scottmclemore.com/
追記; 日本ほど北欧シーンについて情報が入ってくる国も珍しいだろうが、来日するミュージシャンをただ享受するだけではなく、自ら探してみるのも楽しいと思う。アイスランドにも、まだまだ知られていない素晴らしいミュージシャンがたくさんいるだろう。以下のようなサイトがあるようなので、参考までにリンクを張っておく。
http://www.icelandmusic.is/
http://www.reykjavikjazz.is
http://www.musik.is/English.html
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#983『藤井郷子 Satoko Fujii New Trio/Spring Storm』(Libra Records=ボンバ) 悠 雅彦/
#984『ドヴォルザーク&ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲集/ユリア・フィッシャー』(デッカ=ユニバーサル)大木正純/
#985 『ギラ・ジルカ & 矢幅歩 SOLO-DUO/Breathing ...』(Jump World=Boundee)望月由美/
#986『Michael Reis/Hidden Meaning』(Double Moon)伏谷佳代/
#987 『奥平真吾 THE FORCE/Live At PIT INN〜I didn't know what time it was』(ピットインミュージック)望月由美/
#988『Alex Cline/For People in Sorrow』(Cryptogramophone)稲岡邦弥/
#989『キース・ジャレット|ゲイリー・ピーコック|ジャック・ディジョネット/サムホエア』(ECM=ユニバーサル)稲岡邦弥
:
巻頭エッセイ:丘山万里子:カデンツァVol.58「京都での朝の勤行」丘山万里子/
連載フォト・エッセイ:音の見える風景Chapter27「竹内 直」望月由美/
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