#  919(アーカイヴ篇)

『MIZUHO & タイガー大越/Dear DUKE』
text by 小西啓一、ラリー・アッペルバウム


House Of Jazz
HOJ120401
2,800円

MIZUHO (vo)
Tiger Okoshi (tp/flgh)
Reo Genovese (piano/koto)
Randy Runyon (g)
Justin Purtill (b)
James Williams (ds)

1. It don't mean a thing
2. Prelude to a kiss
3. In a sentimental mood
4. Caravan
5. Take the A train~don't get around much anymore
6. Mood Indigo
7. Satin doll
8. In a mellow tone
9. A Flat Minor

Arranged & produced by Tiger Okoshi
Recorded at PBS Westwood, MA, May 24~27, 2011

日本の銘品のジャズ化にも取り組んでもらいたい

Jazz Tokyo の編集部から、北の歌姫、MIZUHOの新作(=エリントン集)について、“(巷で)物議を醸し出しても良い様な内容なので、忌憚の無い意見を…”、と原稿のお誘いがあった。ゲスト・コントリビュータとして折にふれ寄稿させていただいているJazz Tokyoからの申し入れなのだが、この件いささか戸惑いを覚えたのも事実。
自身4作目になるこのエリントン作品集、そろそろ“サー・デューク”でも一丁...、と言った他の凡百の歌い手達のそれとは異なり、かなり斬新で意欲的ではあっても、“物議を…”等という大仰なものとは到底思えない。
確かに才人タイガー大越が、お馴染みの銘品の数々に仕掛けた才覚溢れる凝った意匠(<A列車>と<ドント・ゲット・アラウンド…>の2曲同時進行や4声の歌声&バック・アンサンブルの試み、琴の導入等々)は、斬新で創造的・刺激的なものであり、その手の込んだ編曲を唄いこなすには、かなりな難しさも伴ったはずだが (決して唄いにくくはなく、そこがタイガーの凄いところと彼女は思っている様...)、それをさらっと自然体で自身のものに仕上げる、ジャズ・シンガーとしてのその力量・度量には、率直に拍手を送りたくなってしまう。もしかしたら良き先輩 (バークリー人脈)にして盟友でもあるタイガーの才が、シンガーとしての彼女の実体を、いささか陰薄いものにしてしまっている、という穿った見方もあるかも知れないが、ぼくはそんな意見には組みしない。
いずれにせよここでの彼女の歌声、無理なくかなり“幸せな気分”(アルバムのキャッチ・コピー)で、ほとんどの曲を愉しませてもらった。とくに<サテン・ドール>と珍しい<Aフラット・マイナー>の2曲は洒脱感充分。彼女の醸し出すさりげなさ、それがこの作品の最大 (隠れ) 美点にして凄さなのかも知れないが、とくに他には言いたいこともありません。まあ一つ注文を出すとすると、あの素敵な<ソーラン節>や武満さんの<翼>の様な、日本の銘品のジャズ化にも、これからもっと取り組んで欲しいもの。よろしくお願いしますね。(小西啓一/ラジオ・プロデューサー)


At first, I was a bit dismayed to see Mizuho's new recording, Dear Duke. Not that I don't like her singing--quite the contrary; she has a supple voice, pin-point control and a musician's sensibility in her phrasing. No, my initial reaction was due to the fact that this Duke Ellington tribute seemed to focus mostly on Duke's most popular songs, the same ones that every singer in every jazz bar in every city sings over and over. But after spending time with this disc, I realized that though the repertoire is familiar, Mizuho and trumpet-arranger-producer Tiger Okoshi have done something different with these standards and there are rewarding surprises throughout.
Highlights include Okoshi's swinging, harmonically adventurous trumpet solo on the opening track, the mixed-meter feeling of 3 against 4 in Prelude To a Kiss, the re-harmonized, exotically re-imagined In a Sentimental Mood (with koto coloring played by Reo Genovese), the loping samba of A Train/Don't Get Around Much Anymore, the unison bop vocal-trumpet-piano passage in A Flat Minor, and Caravan's evanescent mystery of fading light.
It's worth noting the excellent sound quality of the recording and the eye-catching graphics, though light red on black background make the credits on the back cover a bit difficult to read. At 37 mins, it's also a short recording by CD standards.
Tiger Okoshi is a well-known player and long-time professor at the Berklee College of Music. Mizuho deserves wider recognition here, and this fine recording should garner her many new fans. (Larry Appelbaum)

この優れた新作で彼女は多くのファンを獲得するはず

まず、MIZUHOの新作『Dear DUKE』を目にしてちょっと不安がよぎった。彼女の歌い方が気に入らなかったのではない。それどころか、彼女の声はしなやかで、コントロールはピン・ポイントで決まっているし、フレージングには音楽家としての感受性が認められる。私の懸念の理由は、このデューク・エリントン・トリビュート作がデュークの最大のヒット曲に集中しているきらいがあったからである。どの街のどのバーでも誰もが何度も繰り返し歌っている曲たち。しかし、このディスクに付き合っているうちに、レパートリーはお馴染みのものであっても、MIZUHOとトランペッターであり、アレンジャーであり、プロデューサーでもあるタイガー大越のふたりは、これらのスタンダードに新しい衣裳を着せ、全編を通して意外性をもたらしていることに気が付いたのだ。
このアルバムのハイライトといえば、オープナーでのスインギーな大越のトランペット・ソロが冒険的なハーモニーに挑戦しているところ、<プレリュード・トゥ・ア・キス>で4拍子と3拍子がミックスしているフィーリング、<イン・ア・センチメンタル・ムード>でのリ・ハーモナイゼイションとエキゾチック感漂うリ・イマジネイション(レオ・ジェノヴェーゼが琴で色彩感を出している)、<A列車で行こう/ドント・ゲット・アラウンド・マッチ・エニイモア>での浮き立つサンバ、<Aフラット・マイナー>でのヴォーカル/トランペット/ピアノによるバップ的なユニゾン処理、<キャラヴァン>でのたちまちのうちに消え行く光のようなミステリー感を挙げることができる。
優秀な録音特性と目を惹くグラフィックス(但し、墨地に薄赤の文字を載せたバック・カヴァーのクレジットは、少々判読しづらい)も特筆すべきである。しかし、標準的なCDからいえば、37分の収録時間というのは短い。
タイガー大越は名の通ったプレイヤーで、バークリー音楽大学で永年教授を務めている。MIZUHOは米国でももっと知られて然るべきだろう。この優れた新作で彼女は多くのファンを獲得するはずである。(ラリー・アッペルバウム/米国国会図書館上級音楽職員/ワシントン)  

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