# 925
『古谷暢康クインテット/アヂテイタア中根中』
text by 稲岡邦弥
| SOLID CDSOL-1487 2,500円(税込) |
フルヤ・ノブヤス(テナーサックス・フルート・クラリネット)
エドゥアルド・ララ(トロンボーン)
ロドリゴ・ピニェイロ(ピアノ)
エルナーニ・ファウシュティーノ(ベース)
ガブリエル・フェランディーニ(ドラム)
1. 扇動者再逮捕サル
2. 同胞達ニ依ル自ラノ発展
3. 宣戦布告・デトロイトハ燃ヘテイルカ?
4. 黒ハ獄・黄ハ地獄
5. 同胞達ハ何処ヘ・林檎農園へノ出発
6. 聖者ハ街ニヤッテ来ナイ
7. 楽園ノ谷ヘ
録音・平成二十三年十一月十四日 技術者ジョアキム・モンテ
スタジオナムーシュ (リスボン・ポルトガル)
ミックス・マスタリング処理・技術者:アルーナス・ズユス
ママスタジオ(ヴィリニュス・リトアニア)
この録音は古谷暢康(ふるや・のぶやす)が十数年ぶりにヨーロッパ武者修行の旅から帰国、杉田誠一の慧眼に叶い、杉田が経営する横浜・白楽のジャズ・バーBitches Brewに創造の場を与えられてまもなく古谷からマスター・コピーを手渡された。一年半ほど前のことであるが、その衝撃は今でも鮮明に記憶に焼き付いている。
古谷の音楽についてはすでに処女作の『Bendowa』(Clean Feed/2009)、2作目の『Stunde Null』(地底レコード/2010) を聴いていたが、この『The Major』はまた格別だった。『Bendowa』は世界最大のジャズ・サイト、アメリカの「All About Jazz」で最優秀新人賞に匹敵する評価を受け、『Stunde Null』は古谷とレーベル・オーナーとの確執が嵩じて廃盤になるというトラブルの中、日本のジャズ・サイト「Jazz Tokyo」で複数の寄稿者により敢然と年間ベストに選出されるという離れ業をやってのけた。ヨーロッパの果てから忽然と現れた血気盛んな若者にオヂ・オバが溜飲を下げてもらったという図式か。古谷が使った武器は日本の微温湯に浸かってオヂ・オバが忘れかけていた“フリー・ジャズ”だった。“フリー・ジャズ”も古谷ほど衒いなく切れ味鋭くやられると気持の良い“音楽”であることを改めて思い出させてくれたのである。
さて、本作『The Major』だが(The Major=少佐、は中根のニックネーム)、これは昭和初期にアメリカ・デトロイトで黒人運動を指導した日本人・中根中(なかね・なか)に取材した一種のコンセプト・アルバムである。中根中については、優れたジャーナリストである出井康博が伝記『日本から救世主(メシア)が来た』(新潮社/2001)を著しているが、文庫化されるにあたって改題されたタイトルが中根中の立ち位置を適格に表している。いわく、『黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人』 (講談社プラスアルファ文庫/2008)。そして、ヨーロッパの果てにやって来たジャズの救世主(メシア)が古谷というわけだ。いまや白人に席巻されつつあるジャズにあって、黒人の復権を目指すべく立ち上がった若き日本人。演奏するのは日本人とポルトガル人だが、スピリットはブルースに始まるブラック・ミュージックそのものである。
リトアニアのNo Businessからリリースされた限定盤LP『The Major』(NBLP44) では時間の都合上割愛されていたカオス渦まくトラック3が復活し、古谷の意図するドラマトゥルギーがより鮮明になった。完全版が日本のレーベルからリリースされることをこの上なく痛快に思う。
以上がボツになったCDに付されるはずであった僕のノーツである。
朝日新聞夕刊(5/28)の新譜紹介欄でこのアルバムを取り上げた萩原健太は、「フリーという表現形式はすでに古典なのかもしれない。主題も過去に求められている。が、本盤を貫く生々しい熱は確実に現代を射貫く。」と記している。
団塊世代?の萩原もこのアルバムにいささかのノスタルジアを感じつつ、「現代を射貫く熱」を聴き取っている。流石である。ちなみに萩原はポップス系を専門とする音楽評論家である。僕自身はこのアルバムを改めて聴き直しながらミンガスの諸作に思いを馳せていた。
“ニュージャズに大きな影響を及ぼしたマルコムX”については、1992年にアンソニー・デイヴィスがオペラ化、Gramavisionから3枚組CDとしてリリースしている。その“マルコムXの台頭より30年以上前に、デトロイトにて多数の黒人を率いてアメリカという巨大国家に真っ向から戦いを挑んだ日本人”中根中についてマルコムXのオペラから20年後に古谷暢康が作品をCD化した。
この事実は記憶されるべきである。
ところで、僕のノーツをボツにした古谷は自ら筆をとりノーツを認めている。文筆家を志向しているだけあり筆力は相当なものである。古谷は、“彼(註:中根中)は見方によってはテロリストであるが、同時に英雄でもある。ではジャズとは何か、そして結局何であったのだろうか。ジャズは時代に見捨てられたのではない、人々と現代がジャズに見捨てられたのではないか。”と自らのノーツを結んでいる。そういう認識の下にこのアルバムが制作された。
なお、ジャケットに使用された写真は前作、坂田明とのデュオ『Live at the Bitches Brew』(SOLID) に続いて杉田誠一の撮影による。(稲岡邦弥)
:
#983『藤井郷子 Satoko Fujii New Trio/Spring Storm』(Libra Records=ボンバ) 悠 雅彦/
#984『ドヴォルザーク&ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲集/ユリア・フィッシャー』(デッカ=ユニバーサル)大木正純/
#985 『ギラ・ジルカ & 矢幅歩 SOLO-DUO/Breathing ...』(Jump World=Boundee)望月由美/
#986『Michael Reis/Hidden Meaning』(Double Moon)伏谷佳代/
#987 『奥平真吾 THE FORCE/Live At PIT INN〜I didn't know what time it was』(ピットインミュージック)望月由美/
#988『Alex Cline/For People in Sorrow』(Cryptogramophone)稲岡邦弥/
#989『キース・ジャレット|ゲイリー・ピーコック|ジャック・ディジョネット/サムホエア』(ECM=ユニバーサル)稲岡邦弥
:
巻頭エッセイ:丘山万里子:カデンツァVol.58「京都での朝の勤行」丘山万里子/
連載フォト・エッセイ:音の見える風景Chapter27「竹内 直」望月由美/
撮っておきの音楽家たち #61デュオ・アマル(ピアノ・デュオ)/
#62「ピエタリ・インキネン」(指揮者)林 喜代種/
カンザス・シティの人と音楽#36(EXTRA)「東洋と西洋のミックスした国マカオで出会った音楽」竹村洋子/
ニセコロッシ・コンサート・ツアー19(Niseko-Rossy Pi-Pikoe) /
及川公生の聴きどころチェック #162『小山太郎/ビート・ザ・ブルース』(M&I/ポニーキャニオン)/
#163『塩谷 哲/アロー・オブ・タイム』(ビクターエンタテインメント)
:
#512「東京フィルハーモニー交響楽団第76回東京オペラシティ定期シリーズ/ミハイル・プレトニョフ/小川典子」伏谷佳代/
#513「マリア・ジョアン・ピリス&アントニオ・メネセス デュオ・リサイタル」伏谷佳代/
#514「エスペランサ・スポルディング〜ラジオ・ミュージック・ソサイエティ」神野秀雄/
#515「黒沼ユリ子 ゴールデン・アニバーサリー.コンサート」西松朝男/
#516 エグベルト・ジスモンチ & アレシャンドレ・ジスモンチ「ギターデュオ、ピアノソロ」神野秀雄/
#517「航プレゼンツKarl2000日本デビュー・ツアー」伏谷佳代/
#518「ブリュッヘン・プロジェクトT・U・V/フランス・ブリュッヘン&18世紀オーケストラ」伏谷佳代/
#519「ブリュッヘン・プロジェクト〜18世紀オーケストラ&新日本フィル 第2回」佐伯ふみ/
#520「上原ひろみ〜ソロBlue Note Tokyo' s 25th Anniversary Year Special Program」悠 雅彦/
#521「ポール・モチアン・トリビュート・コンサート」スティーヴ・バップ
#522「第63回 藤井昭子〜地歌 Live」
Copyright (C) 2004-2013 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.