# 935(アーカイヴ編)
『本田竹曠/ジス・イズ・ホンダ』
text by 稲岡邦弥
トリオレコードとの専属期間中に制作されたピアニスト本田竹曠のアルバムが再発されている。8作中7作。何度目かのお務めだが、今回1作だけ再発を見送られた『フライング・トゥ・ザ・スカイ』は、ドイツのフリー系ミュージシャンとの共演盤で、じつはこのアルバムに限り、僕が04年に“70年代日本のフリージャズを聴く!”シリーズ(Polystar)を組んだときに初CD化している。
69年から数年間トリオレコードはデビューまもない新進気鋭のピアニスト本田竹曠と専属契約を結び、オーソドックスなピアノトリオから日米混成のテンテットによるファンク・アルバムまでさまざまな企画と編成によるアルバムを制作した。制作は外部委託でプロデューサーが森山博、エンジニアは菅野沖彦という布陣。僕が入社した頃、この『ジス・イズ・ホンダ』とテディ・ウィルソンと北村英治による『テディ・ミーツ・エイジ』が専門誌の「最優秀録音賞」を獲得し、連日注文が絶えなかったことを記憶している。
今回の再発で注目すべきは、アルバムの解説執筆とマスタリング監修を竹曠の息子で今や日本を代表するドラマーに成長した珠也が担当していることだ。本田珠也は竹曠とジャズ・シンガー、チコ本田との間に生まれた次男で、チコはご承知の通り、渡辺貞夫の妹。ちなみにこのアルバムでドラムスを担当している渡辺文男は渡辺貞夫の弟だから、竹曠の義兄にあたり、珠也にとっては叔父ということになる。血縁関係に触れたのは、珠也が解説の中で彼らに言及している部分があり、その発言がなかなか辛辣であったりするからだ。珠也は渡辺文男のドラミングを「泥臭いドラミング」と表し(決してマイナスの評価ではなく、ドラミングの特性を表している)、前作『アイ・ラヴ・ユー』(1971年4月)のドラマー村上寛のドラミングを「ジャズに捉われない、新しい感性による役割」と表している。竹曠と親交の深かった村上寛が菊地雅章セクステットに抜擢され、竹曠のトリオを退団することになった事態については、(竹曠は)「大酒を食らい、自宅のあらゆるモノを破壊し、危険を感じた母は兄と私を隣家に匿(かくま)り、母は必至に怒り狂う竹広(註:本田は、竹曠を竹広と表記した時期があった)を宥(なだ)めたのだ」と、おそらくは母.チコ本田からの伝聞を記している。このように肉親ならではのエピソードとともに、父親については畏敬の念を帯びながらもかなり客観的な評価を下している。プレイヤーとしての立場からは、トラック4でのピアノとベースよるそれぞれのソロでの小節数のミスを指摘することも忘れない。
このアルバムは、大地に根を生やしたかのように「泥臭い」渡辺文男の強力なドラミングに煽られた本田がメインストリームをどこまでもストレードフォワードに突っ走る爽快さと(クラシックで鍛えられた奔流のような指さばきに圧倒されるリスナーも多いことだろう)、「最優秀録音賞」を受賞した名匠・菅野沖彦の好録音が相まって永遠のベストセラーとしてすでに評価が定まっている。珠也のエッセイは新しい情報に満ち、なかなか楽しい読み物になっているが、マスタリングについてはどうだろう。従来のよりアナログ的な音色を好むファンと2分されるのではないだろうか?(稲岡邦弥)
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#986『Michael Reis/Hidden Meaning』(Double Moon)伏谷佳代/
#987 『奥平真吾 THE FORCE/Live At PIT INN〜I didn't know what time it was』(ピットインミュージック)望月由美/
#988『Alex Cline/For People in Sorrow』(Cryptogramophone)稲岡邦弥/
#989『キース・ジャレット|ゲイリー・ピーコック|ジャック・ディジョネット/サムホエア』(ECM=ユニバーサル)稲岡邦弥
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