# 940
『加藤崇之・是安則克・山崎比呂志/TRIO 1997』
text by 稲岡邦弥
是安則克1周忌についに陽の目を見た加藤崇之トリオ伝説の一夜
<Last Step to Heaven>、天国への最後の一段、あるいは一歩を是安は踏み外すことなく昇りきり彼岸へ行ってしまった。一年前の9月23日のことである。
微弱音から始まったギターのサウンドがシンバルとベースのアルコを従えながら徐々に徐々にクレッシェンドしていき完全な姿を現したとき、そこには是安の人生が詰まった重く渋いベースのうなりが横たわっていた。大きな存在感とともに。加藤の巧みなエフェクターさばきでギター・シンセのような重層的な響きを耳にしたとき、一瞬これは是安に対するレクイエムかとの思いがよぎったが、この演奏は紛れもなく今から15年前の新宿ピットインでのトリオでの演奏をライヴ収録したものなのであった。三者が巧みに反応しながら抑制を利かせたポスト・フリー的演奏を聴かせる<デジャブ>から、さらにストイックなまでに抑制を利かせたデレク・ベイリー的世界を現出させる<僕の禅>までが加藤のオリジナル。この見事なまでのバランスは互いをリスペクトする三者の心情と傑出した音楽的センスの賜物以外のなにものでもない。
アコースティックに持ち替えての残りの3曲はよく知られたスタンダード。しかし、そこはくせ者揃いの彼らのこと、どの曲もコーラスがすべてストレートに演奏されることはなく、途中からパラフレーズされたり、アドリブに走ったり自由きままな展開をみせる。バラードで始まった<アイ・ヒア・ア・ラプソディ>が後半快適にスイングする4ビートで思わず頬をゆるめ、さまざまにテンポを変えながらオンに乗ったりオフに外れたりジャズ・スタンダードの醍醐味を聴かせる<オレオ>はスリル満点。ひとときも気を緩めることができない。どの曲も展開をリードするのは加藤だが、その加藤に自由な展開を可能にさせるのは、是安となかでもベテランの山崎比呂志。スタンダードでは是安と山崎のソロの聴かせどころもある。三者はそれぞれがヴァーサタイルな適応力を持つミュージシャンで、加藤と山崎はヴォーカルとのセッションも多く、加藤は潮崎郁男gとのギター・デュオでさがゆきvoと制作したアルバム『I wish you love』(地底)が悠雅彦JT主幹により2010年のベスト・アルバムに選出されているし、宅朱実p,voとの共演歴も長い。山崎も娘・山崎瑞江voとのヴォーカル・アルバム『How deep is the ocean』を制作している。是安は、田村夏樹tpの「ガトー・リブレ」のレギュラー・メンバーで、ヨーロッパ・ツアーを目前に是安を失った田村と藤井郷子pの茫然自失ぶりを思い出す。ガトー・リブレの最新作『フォーエバー』(LIBRA)は、是安の死の1週間前に録音されたものだ。
この録音は、TBMからの発売を前提として録音されたものだが、是安の1周忌を契機に加藤の決断で地底レコードからリリースされることになった。即決した地底レコード吉田光利の目に狂いはない、素晴らしいアルバムである。彼らの代表作の1枚として多くのファンに歓迎されることだろう。
是安則克(これやす・のりかつ) 昭和29年12月6日 北海道釧路市生まれ。早稲田大学理工学部在学中にモダンジャズ研究会に入部、ベースを始める。
加藤崇之(かとう・たかゆき) 昭和30年1月31日生まれ プロ入りのため成蹊大学中退。ブラジル音楽からジャズ、フリーまで。ソロ活動も多い。
山崎比呂志(やまざき・ひろし) 昭和15年東京生まれ、鹿嶋市在住。菊地雅章らとの共演を経て、高柳昌行g、阿部薫asとグループ結成。高柳との共演で多くの名演を残す山崎弘その人である。(稲岡邦弥)
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