#  091

須藤伸義/Nobu Stowe  pianist/composer/journalist

Interview “Nobu Stowe:Beyond Free” by Glenn Astarita
originally published by All About Jazz, August 25, 2010
http://www.allaboutjazz.com/php/article.php?id=37259
Translated by Kenny Inaoka for Jazz Tokyo
Photo by Agostino Mela
of All About Jazz:

須藤のインプロヴィゼーションはいわば「即時的作曲」である。そういう意味で彼の音楽はいわゆる「フリー・インプロヴィゼーション」とははっきり一線を画している。彼の作曲能力は、プログレッシヴ・ロックやフュージョンからポスト・バップのユニットに至るまで作曲を基本とするさまざまなプロジェクトで如実に示されている。そこでは、彼のポピュラー・ミュージックに対する感受性が反映された進歩的な姿勢から生み出される個性的な楽曲が演奏されている。高まりつつある国際的な評価に明らかなように、須藤の音楽は親しみ易く一般ファンの支持を得ているだけでなく、同時に冒険的でもありその筋のマニアックなファンをも満足させるものなのだ。

須藤のユニークで個性的な人物像は彼の音楽と変わるところがない。彼の本名は須藤伸義といい、日本生まれであるが、成人の大半をアメリカ(バークレー、シカゴ、現在はボルチモア)で過ごしている。彼はカリフォルニア大学バークレー校(修士号取得)とシカゴ大学(博士号取得)で学んだ心理学者であり、現在はメリーランド大学で「動機の生物学的根拠」を調査、探求中である。彼はまた、日本のネット・マガジン「Jazz Tokyo」やスペインのブログ・マガジン「Toma Jazz」にさまざまな記事や批評、インタヴュー(キース・ジャレット、ミシェル・ルグラン、ゲイリー・ピーコック、ポール・ブレイ、マーシャル・ソラール、ビル・フリゼール、マリリン・クリスペル、チコ・ハミルトンなど)を寄稿しているジャーナリストでもある。近々日本で刊行予定のECMレコード創設以来初の完全カタログへの執筆メンバーにも加わっている。(2010年7月グレン・アスタリータ記)

♪ 「トータル・インプロヴィゼーション」とは?

All About Jazz (AAJ):リーダー/コ・リーダーとしてKonnexとSoul Noteから5枚のアルバムをリリースしていますね。収録されている演奏は数曲を除いてすべて完全な即興です。通常の完全即興とは違って、あなたの即興にはさまざまなスタイルのヴァリエーションが見られます。そして、美しいメロディ、トーナル・ハーモニー、そして構造上の統一感など、どれをとっても予め作曲されたかのような印象を受けます。あなたの完全即興演奏は「トータル・インプロヴィゼーション」といわれていますが、この言葉を定義すると?

須藤伸義(須藤): 「トータル・インプロヴィゼーション」というのはキース・ジャレットが使い出した用語で、フリー・インプロヴィゼーションと同じく完全な即興による音楽の一ジャンルになりますが、調性やリズムには関係なくサウンドそのものの探求に限定されることの多いフリー・インプロヴィゼーションとは違って、「トータル・インプロヴィゼーション」は美しいメロディ、トーナル・ハーモニー、そしてリズムを排除しません。そういう意味で、「トータル・インプロヴィゼーション」は、「即時的な作曲」ということができるでしょう。関連した用語にミシャ・メンゲルベルクと彼のインスタント・コンポーザーズ・プール (ICP)・オーケストラでよく知られる「インスタント・コンポジション」があります。ストレートなフリー・インプロヴィゼーションと比べると「トータル・インプロヴィゼーション」とインスタント・コンポジションは共に音楽上の構造とリズムの音型がより明確であるといえます。「トータル・インプロヴィゼーション」とインスタント・コンポジションの間に明確な相違はないと思いますが、「トータル・インプロヴィゼーション」の方がよりメロディとトーナル・ハーモニーに基づいた音楽であるといえると思います。

AAJ:完全な即興音楽に対するあなたのアプローチは多面的で万華鏡的な音楽要素を含んでいます。自身の音楽の特徴を要約するとどうなりますか?


須藤:3つのキーワードを挙げたいと思います。まず、「ストーリー・テリング」であること。音楽を通じて物語を語るのが大好きです。僕の音楽がさまざまな要素やムード等々を内包している理由です。次に、「即時性」です。即時性は、作曲された音楽であれ、完全な即興演奏であれ、クリシェを避け、新鮮さを獲得するための音楽上の自由のためのキーといえます。3番目は「ロマンチシズム」で、私の音楽の特徴であるメロディアスであることとトナリティに基づいた和声進行に直結するものです。著名なアヴァン系プロデューサーのレオ・フェイジンから最近来たメールには「ノブ、君は癒し難いロマンチストだ!」と書かれていました。数年前、レオは僕のコ・リーダー作『ニュー・ヨーク・モーメンツ』(Konnex、2007)を高く評価してくれたのですが、今回のメールでは、僕の音楽は彼のレーベル、レオ・レコード向きではありません、とはっきり書いてきました。なぜなら、あまりにも「ロマンチック」であるからだと。だけど僕はこのコメントを誇らしく思いました。

AAJ:あなたのスタイルは完全即興音楽のなかでもユニークですね。とくに、アヴァン系やフリージャズ・タイプと比較した場合はね。私には、あなたはいわゆる「フリー・ミュージック」を超えた何かに到達しようと試みているように思えます。自分自身ではフリー系のミュージシャンとどのように自身を区別していますか。どのようにフリーを超えようとしていますか。


須藤:アヴァンギャルド/フリー・ジャズ系のジャズ、とくにフリー・インプロヴィゼーションで気になることのひとつは多くの演奏にみられる単調さです。つまり、フリー・インプロヴィゼーションは如何なるフォームあるいはクリシェからも自由であろうとするなら、なぜ当然のように決まって調性やリズムを無視し、耳に快くないのか、ということです。
もちろん、なかには、こういう問題を超克したデレク・ベイリーやAMM、エヴァン・パーカーなどのマスターたちによる至高の作品はあります。
僕自身もかなりのフリー・インプロヴィゼーションの演奏を楽しんでいますが、伝統的なシバリから自由になっていることがフリー・ミュージックの必要十分条件ではないと思う。なぜなら、音楽が伝統的なシバリから自由になった途端に、非伝統的な、あるいはいわば「伝統から自由な」シバリにこだわるというワナにはまってしまうからです。結論としていえることは、真のフリー・ミュージックとは伝統的なシバリを否定することではなく理解することによってのみ可能になると思うのです。
即時性こそ真の音楽上の自由を獲得するためのキーだと思う。そして、そう、メロディが答えになると思う。ここでメロディというのは、旋律として美しく、歌謡性があり、文化のバリアを越えて誰でも口ずさめるメロディアスなフレーズのことです。そういうメロディは即時的にしか生まれてこないんですね。だから、メロディを創造するプロセスは本能の範囲に属しているのです。つまり、創造のプロセスというのは学習するというプロセスにはほとんど依存していないのです。メロディの創造は即時的でクリシェとは関係ないという事実を確認すれば理解できることです。

AAJ:あなたの音楽は間違いなく「ジャズ」のもっとも重要な要素である即興に確固として基づいたものですが、潜在的には過去のさまざまな影響も無視することはできません。それは意図的なものですか、あるいは自然の成り行きでしょうか。

須藤:それは意図的なものであると同時に自然なものでもあります。僕は、作曲家であり、即興演奏家であり、ピアニストであり、キーボード・プレイヤーでもありますが、自分を本来の意味でのジャズ・プレイヤーとは思っておりません。まず、僕がジャズを鑑賞できるようになるまで20年以上かかったことを認める必要があります。最初から自然にジャズを理解し、ジャズの伝統の中で充分教育を受け才能に恵まれたジャズ・ミュージシャンが大勢います。僕はこの手の純粋ジャズ派とストレートなジャズ・イディオムであえて争おうとは思いません。逆に、僕は生まれつきの即興演奏家で、気が付いたときはすでに即興演奏をしていました。最終的に大学でジャズに出会うまでに、僕はすでに他のジャンルの音楽イディオム、たとえば、ロック、ポップス、クラシック、あちこちのエスニック・ミュージックを表面的ではあったかも知れませんが自由に使いこなしていたのです。そこで僕は、自分の個人的な音楽の遍歴や影響を反映した自分独自のジャズ・イディオムを見つけたかったのです。それが理由で僕は意図的に正式なジャズ教育を忌避したのです。


♪ キース・ジャレットの『マイ・ソング』でジャズにはまった

AAJ:ジャズに出会う前に最初に影響を受けたのは誰ですか。

須藤:僕は日本で生まれ18才でアメリカに移住するまで日本で育ちましたので、さまざまな文化のさまざまなジャンルの音楽から影響を受けました。音楽に対する好みもその間、劇的に変化しています。

両親はジャズは聞いていませんでしたが、クラシックや映画音楽の他、フランスのシャンソン、イタリアのカンツォーネ、アンデスのフォルクローレ、インドのラーガ、中国の伝統音楽などかなりのレコードをコレクションしていました。クラシックで好きな作曲家は、J.S.バッハ、ベートーヴェン、ショパンでした。映画音楽の作曲家では、ニーノ・ロータ、ミシェル・ルグラン、ヘンリー・マンシーニ、エンニオ・モリコーネが好きでした。マイルス・デイヴィスの『死刑台のエレベータ』(Universal/1958)やルイス・ボンファとアントニオ・カルロス・ジョビンの『黒いオルフェ』(EmArcy/1959)はジャズ・アルバムではなく映画のサウンドトラックとして聴いていました。


12才の頃、僕はビートルズに夢中になりました。ビートルズ熱は3年程続き、毎日ビートルズ(メンバーのソロ・アルバムも含めて)と同時代のボブ・ディランやローリング・ストーンズを聴いていました。その後、イエスやキング・クリムゾンなどの先駆的なイギリスのバンドだけでなく、ヨーロッパや南米のバンドも含めてプログレッシヴ・ロックにはまったのです。ジャズ・ロックも聴きましたが、好きだったのはシンフォニック・ロックで、とくにPFM、バンコ、ニュー・トゥロールズ、アリア、ル・オルメなど、イタリアのバンドが好みでした。イタリアの音楽に特徴的な口ずさめる美しいメロディに惹かれたのです。この頃、(マイルス・デイヴィスの)『カインド・オブ・ブルー』(Columbia、1959)や(ジョン・コルトレーンの)『至上の愛』(Impulse!/1964)などジャズの古典的な名盤も耳にはしていましたが僕には退屈な音楽でした!でも、コルトレーンの『バラード』(Impulse!/1962)は楽しめました。おそらく、彼の情感溢れるメロディックな演奏のせいだと思います。

その後、カリフォルニア大学のバークレー校に進み、心理学と音楽(作曲)を専攻しました。大学時代に、ECMの名盤『リターン・トゥ・フォーエヴァー』(1972、チック・コリア)を耳にしたのですが、自然主義的なメロディとブラジル音楽と解け合ったリズムがとても印象的でした。これがきっかけとなって、ウェザー・リポートやマハヴィシュヌ・オーケストラなどのフュージョン・バンドを聞き出したのです。さらに、大学院へ進むためバークレーからシカゴに移ったのですが、友人からキース・ジャレットを強く薦められたのです。初めて買ったアルバムは有名な『ケルン・コンサート』(ECM/1972)でした。気には入ったのですが、夢中になるほどではありませんでした。しかし、どこか気になる部分があったのでもう1枚『マイ・ソング』(ECM/1978)を買いました。このアルバムを初めて耳にしたときのことを鮮明に記憶しています。シカゴ時代の晩秋の寒い日でした。最初の一音からその音楽は僕の心を捉えました。アルバム全部が好きですが、<カントリー>がとくにお気に入りです。これがきっかけとなって僕はキースなら何でも、次いでECMなら何でも、そしてついにはジャズ関係なら何でもとコレクションが進んでいきました。キースの他にはミシェル・ペトルチアーニ、ジャンゴ・ラインハルト、チャーリー・パーカー、チェット・ベイカー、デューク・ジョーダン、ヨアヒム・キューン、アルド・ロマーノ、富樫雅彦が僕にもっとも強力な印象を残したジャズメンたちでした。他にも好きなミュージシャンはいろいろいますが。(続く)


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