#  100

Mark Berman|マーク・ベルマン producer/composer/musician (オランダ)

マーク・ベルマン
1983年2月8日、オランダ、アムステルダム生まれ。
「フィン・シルバーFinn Silver」で活動中のミュージシャン&プロデューサー。
今年5月に発売されたフィン・シルバーのデビューアルバム「クロッシング・ザ・ルビコン Corossing the Rubicon」が日本のiTunesを通じアジアで急激にヒット。その後、中国、台湾、日本、韓国の他、ポーランド、ロシアなどを含む10数ヶ国でCDリリースが決まり、その短期間での人気急上昇ぶりが国内外のメディアで取り上げられ、さらに話題を呼んでいる。作曲からアレンジ、CD制作、プロモーションまで一貫して自らが担当、デビューアルバムはベルリンのジャザノバ・スタジオで録音された。CDが売れない、レコード会社の危機的状況・・・と、ITによる音楽配信がミュージック・ビジネスのあり方を崩壊させたといわれる時代、その無料ダウンロードを逆手にとってのプロモーションやマーケティング・センスにIT世代の音楽制作の新手法が感じられるとの評価もある。

2011年11月1日
@ 'Blauwe Theehuis' Vondelpark in Amsterdam
Interviewed by Atzko Kohashi/小橋敦子
Photos:Courtesy of Jazzberry

♪ 日本のiTunes で1週間に60,000回ダウンロードされた

Q: 日本のiTunesでの無料ダウンロードがアジアでの大ヒットに繋がったと聞いています。その経緯を聞かせてください。
MB: 5月にベネルクス(オランダ、ベルギー、ルクセンブルグ)でCDをリリースした2週間後にiTunes Japanから電話があり、曲を無料ダウンロードとして提供しないかという申し出がありました。「無名の僕らに、どうして日本のiTunesが?」と驚きましたが、もちろんすぐにOKし、アルバムの中の曲<ロード・トリップ>が「今週のシングル」で紹介され無料配信されるようになりました。その1週間で60000回ダウンロードされ、その直後からCD『クロッシング・ザ・ルビコン』が注目されるようになったのです。

Q: 無料で楽曲を配信することに抵抗はなかったですか?
MB: 僕らミュージシャンは、聞いてくれる人がいればこそです。少しでもたくさんの人に自分たちの音楽を聞いてもらえれば嬉しい。1曲聞いて気に入れば、その他の曲も聞いてくれるだろう、CDも買ってくれるかもしれないと期待しました。最初にちょっと試してみて気に入ったら買う・・・試聴というのは食品やワインの試食、試飲みたいなものかもしれません。

Q: その後、アジア各国でのCDライセンス契約が成立し、日本版をはじめそれぞれの国からリリースされることになりましたね。各国のレコード会社とはどのように折衝したのでしょう?
MB: 幸運を待ってるだけではダメです。タイミングが大事だし、チャンスは逃せない。それで、日本のiTunesで話題になっているうちにと、僕らの方から各方面に直接電話をかけました。大使館にも連絡して、どんなレコード会社があるか情報をもらいました。オランダとアジアでは7~8時間時差があるので、その頃は毎朝4時に起きて電話の前にいました。レコード会社探しも楽ではありませんが、この電話攻勢が効を奏したようです。

Q: こういうことまでミュージシャン自身が関わるというのは今までにはあまりなかったことではないでしょうか?
MB: 僕らは無名だし、大きなコネクションがあるわけでないので自分たちでやるしかない。それにオランダの場合、もともと大きなレコード会社はほんの僅かで、ミュージシャンが自分たちでプロデュースし、それぞれがコンサートや自分たちのウエブサイトなどを通じてセールスするのが当然のようになっています。いわゆる個人レーベルやインディーズは昔から自分たちの手で全てやってきていたわけですが、今はインターネットを通じて、より多様に広範囲に宣伝ができるようになってきたということです。僕らにとっては(CDの売れ行きはともかく)インターネットによって可能性が広がったことになる。一方で宣伝に多額の費用をかけてきた大手レコード会社はその影響もあって危機的状況に追い込まれてきています。僕らの場合、日本のiTunesが幸運の扉を開いてくれたことになりますが、それから先は自分たちで進めていかなくてはならない。今までミュージシャンは音楽のことだけに集中していればよかったが、これからは聞き手の側に立ったプロモーションも考えていく必要があるし、そのためにもっと外の文化に触れ、他の国のことも理解する必要があると思います。

Q: でも例えばジャズの場合、ミュージシャンは音楽に没頭するタイプが多いし、才能のある人ほど人付き合いが苦手だったり、内気だったりする人が多い。セロニアス・モンクがフェイスブックで宣伝したり、ビル・エバンスやキース・ジャレットがツイッターでファンに呼びかけたりといった光景は想像もできませんが・・・
MB: 彼らのような場合にしても、周りに奥さんや親友、或いは、よき理解者であるプロデューサーなど、影武者のような存在があったはずです。本人をよく理解している人たちが、彼らに代わってマネージメント、プロモーションをしてきていたように思います。


♪ Think ahead 少し先を考える

Q: 今回あなたがCDを制作するにあたって、プロデューサーとして今の成果をプランしていましたか?
MB: まさかこんなふうに事が運ぶとは思っていませんでしたが、振り返ってみると過去にやってきたことがここに至るまでの意味を持っていて、全て繋がったように感じられます。でも、それはプランしてきたというのとは違います。ただ、Think ahead 少し先を考える、いろんな状況を予測しておく、これがだめならこういうことも出来る、というように柔軟に対応していくことは大切だと思います。音楽の世界はプランしていても実際実現することの方が少ないですから。

Q: 最近亡くなったアップルのスティーブ・ジョブズも「自分の成功はプランしたのではないが、今思うと全てが繋がっている・・・」と大学でのスピーチで語っていました。それもやはりThink aheadがあったからでしょうね。さて、アルバム『クロッシング・ザ・ルビコン』はベルリンのジャザノバのスタジオでの録音、このことも大きな話題を呼びましたが、当初から予定していたのですか?
MB: 最初、僕らは自宅で自分たちの演奏を簡易録音して、デモテープとしてジャザノバのアクセル(Axcel Reimer)に送りました。ジャザノバとは、僕がDJをしていた時にアムステルダムのクラブに出演してもらった事があってそれ以来の知り合いでした。しかし、デモを送ってから何の音沙汰もなく、あきらめていた頃に返事があって、録音するならベルリンの彼らのスタジオでやったらどうかとの誘いを受けました。本当にラッキーでした。

Q: 今回のCD『クロッシング・ザ・ルビコン』では、ミュージシャンはロンドン、アムステルダムで活躍する人たち、そしてレコーディングはベルリンで・・・とロンドンーアムステルダムーベルリンという地理的コネクションがあるようにいわれていますが、こういった地理的な影響は大きいと思いますか?
MB: アメリカは例外で、ヨーロッパの国々はそれぞれ小国が集まっているわけですから、だれもが自分の国だけを視野に入れているわけではありません。ツアーをするにしても、CDリリースにしても、自分たちの国だけでは限度がある。それが、インターネットによって世界がもっと縮まってきたので、よりインターナショナルに考えられるようになってきました。ヨーロッパだけでなくアジアにも発信できるし、一緒に演奏するメンバーだってロンドンやベルリンだけでなくこれからはもっと広範囲に考えていけると思います。










♪ 日本の忍法武術を通して「技を磨く」ことを学んだ

Q: あなたはプロデューサー、作曲者、アレンジャー、ミュージシャンであり、またジャズベリーJazzberryのオーナーとしてコンサートやDJのイベント企画もしています。あなたは音楽学校で勉強したことはないそうですが、どこでこういうスキルを身につけたのでしょうか?
MB: 僕はレストランで働いていたとき、見よう見まねでDJのワザを習得しました。その後DJとして本格的に仕事をするようになりJazzberryを立ち上げました。DJをやりながら学んだことは大きく、コンサートを企画する方法、聞き手の側に立つことなどもこの頃学びました。音楽以外のことをやっていた事が、とても役立っています。真剣に音楽をしようと思ったのは18才の時ですが、それまでの11年間は日本の忍法武術を習っていて、指導もしていました。ジャズや音楽は身近な存在ではなかったけれど、その時の武術を学ぶ上での心得が後に大いに役立ちました。日本人が「技を磨く」ように必死になって努力すれば必ず達成できる、と信じていましたから。

Q: 「フィン・シルバー」というグループは、音楽ジャンルではジャズ・ポップと言われています。ジャズのルーツを感じさせながらクラブ・ジャズやエレクトロニックなテイストを合わせ持ったサウンドだと。今回の参加メンバーも様々なジャンルで活躍する人たちですが、基本的にはみんなジャズにルーツがあると聞いています。音楽が多様化している現在、ジャンルわけは難しいと思いますが、ジャズ・ポップというような呼称をどう感じていますか?
MB: ミュージシャンの立場からいえば特にジャンルにこだわる必要はないけれど、プロデューサーとしてはジャンルが定まっていないと難しいし、買う人の立場からもジャンル別になっていないと好みの音楽を探すのに困るでしょう。そういう理由でジャズ・ポップという名称があってもよいかなと思います。

Q: 「フィン・シルバー」はあなたとフリドライン・ファン・ポール Fridolijn van Poll(ボーカル、作詞)とのユニット、つまり固定メンバーはあなたとボーカルのフリドラインの二人ですね。ということはその他のメンバーは流動的ということですか?それにはプロデューサーとして何か特別な考えがあるのでしょうか?
MB: 僕は自分の曲に合った音楽のカラーを出していきたいので、今回のアルバムでも曲によって編成が違っています。曲のイメージに合うようにと、特別にエルンスト・グレラム(ベーシスト)に頼んでウッド・ベース、それも弦で演奏してもらっている曲もあります。次のアルバムではまた違う編成、違うミュージシャンと組む可能性ももちろんあります。固定メンバーでいるよりも、さらに表現の枠が広がるし、その度に変化が楽しめると思っています。

Q: 『クロッシング・ザ・ルビコン』はCDだけでなくLPも出ていますね。特にこだわりがあるのでしょか?また、CDは今後なくなっていくと思いますか?
MB: 今の時代、サウンドの好みだけでなく、音を何で聞くか人によって違います。CD、LP、MP3と、各々の嗜好、生活スタイルによって異なるわけで、それらのニーズに対応できる必要があります。CDもLPもなくなることはないし、なくしてはいけないと思っています。僕自身もMP3で聞くこともあれば、CD、LPの時もある。聞く音楽のジャンル、用途、また状況によって変わります。LPへのこだわりはもちろんあります。ジャケットのアートワークや盤そのものが、作品としての価値を高めているように思います。


♪ 来年1月にはビルボード・ライヴに出演する

Q: 来年早々に来日コンサートがあるそうですね。日本の音楽ファンに対してはどのような印象を持っていますか?
MB: とてもフレキシブルだと思います。オランダでは、ジャズというだけで『ああ、ジャズか。あまり興味ないね』という反応を示す若者もいれば、ヒップホップと聞いて嫌悪感を示す大人もいる。ところが日本では、面白そうなら『何でも聞いてみよう』というフレキシビリティーがある、外からのものに対してオープンマインドで、いろんなものを受け入れる気質が備わっているように感じています。来年1月24日、25日にビルボード・ライヴ東京、大阪でコンサートをしますが、どんな人たちが聞きに来てくれるか、今から楽しみです。


*フィン・シルバーFinn Silver のWEBサイト: http://www.finnsilver.com/
*ジャズベリー Jazzberry のWEBサイト: http://www.jazzberry.nl/




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