#  103

レオナルド・パブコヴィッチ(Moon June レコード主宰)
www.moonjune.com

レオナルド・パブコヴィッチ
旧ユーゴスラビアのボスニア地方生まれ。幼少期にイタリアへ移住し、同地の大学を卒業後、ニューヨークに移住。2001年にMoonJuneレコードを設立。ジャズ系のプログレッシブ・ロックを中心に、現在までに45枚のアルバムをリリース。同時にコンサート・ブッキングも国際的に手がけ、2Plus Music & Entertainmentを設立。プログレ系のミュージシャンを中心に日本へも多数の公演を企画・実現中。

Interviewed by Nobu Stowe(須藤伸義)

2012年4月

♪ ボスニアで生まれ、南イタリアで育ち、NYでビジネスに携わる


NS:バックグランドは?

LP:ユーゴスラビア時代のボスニアで生まれました。モンテネグロ/クロアチア/セルビアとイタリア系が、混じった家系です。まだ、小さい時に南イタリアに引越し、その地で育ちました。そして、バリ(注1)の大学を卒業しました。専攻は、ポルトガル及びブラジル文学です。ニューヨークに移り住んだのは、1990年です。最初は、グラフィック・デザインの仕事に就きました。その仕事を通して、沢山の音楽関係者と知り合ったのが、この音楽業界に入るきっかけになりました。そして、2001年にMoon Juneレコードを設立しました。同時に、ミュージシャンのマネージメント/コンサート・ブッキングも行うようになり、この方面の充実のため、2010年に、元ジェントル・ジャイアントのデレク・シャルマン(注2)と共同で、“2Plus Music & Entertainment”を設立しました。

注1:プッリャ州の州都。湾岸都市で、南部イタリアの商業の中心地。
注2:ジェントル・ジャイアントは、70年代英国プログレッシブ・ロックを代表するバンドの一つ。多種の要素が入り混じった楽曲を、各楽器の複雑な対位法的アレンジ、ポリリズムや変拍子を高度な技巧で、軽やかに演奏する、高度な音楽性が特徴。デレク・シャルマンは、リードボーカルとベース、リコーダー他各種楽器を担当。彼は、グループ解散後、アメリカに渡り、ポリグラムやAtcoレコード他で音楽マネージメント業(ボンジョヴィ、ドリーム・シアター、シンデレラ、パンテラ等のへヴィー・メタル系中心)で大成した。


NS:Moon Juneレコードの名前の由来は?

LP:ソフト・マシーン(注3)の『Third』(1970年:CBS)に収録されている、ロバート・ワイアット作曲の〈Moon in June〉より名づけました。レーベル設立にあたり、自分が本当に好きなモノの名前をつけたいと思いました。それから、世界各国の人々に覚えやすいように、発音が易しい事も重要だと思いました。また、“ムーンジューン”という響きと意味は、インスピレーションをかき立ててくれると、思っています。

注3:60−70年代、英国ロックの最重要バンドの一つ。メンバーの変動にしたがい、サイケデリック・ロック―>プログレッシブ・ロック/ジャズ・ロック―>フュージョンと多様な音楽的変遷を遂げた。ロバート・ワイアットは、バンド設立時のドラマー兼リード・ヴォーカリスト。カリスマ的ミュージシャンで、72年の不慮の事故後、下半身不随となりドラマーとしての生命を絶たれるが、個性的なヴォーカリストとして今日まで、活躍している。マイケル・マントラー『The Hapless Child』(1976年:Watt)、ジョン・ケージ『Experiences No.2』(1976年)、坂本龍一『ビューティー』(1989年:Virgin Japan)や、ビョーク『Medulla』(2004年:Warner)、元ピンク・フロイドのデヴィッド・ギルモア『On an Island』(2006年:Columbia)他、色々なミュージシャンの作品に参加してきている。


NS:Moon Juneレコードの作品は、プログレッシブ・ロックを中心に、フュージョンやジャズ、その他のエスニック音楽等、多岐に渡っています。これは、あなたの幅広い嗜好性を表していると思いますが、どのような音楽を聴いて育ったのですか?

LP:高校生の時から、もう35年以上、ロック、ブルース、プログレッシブ・ロック、ジャズ等、色々な種類のレコードを集めてきました。最初は、ディープ・パープル、ブラック・サバス、デヴィッド・ボウイ、ドアーズ、T.REXにのめり込みました。高校を卒業する頃には、プログレッシブ・ロックに興味が移っていき、イエス、ピンク・フロイド、ジェネシス、ELPを夢中で聴いていました。同時に、ブルース(ジョン・メイオール、マディー・ウォーターズ、ジョン=リー・フッカー他)とジャズ(マイルス・デイヴィス、ジョン・コルトレーン他)のファンにもなりました。しかし、音楽的に一番重要な出来事は、ロックやジャズといった音楽上の垣根(ジャンル)に縛られないミュージシャンたち、例えば、ソフト・マシーン、ロバート・ワイアット、テリエ・リプダル、ヴァンダー・グラーフ・ジェネレーター、ハット・フィールド・アンド・ザ・ノース、ジェントル・ジャイアント、キング・クリムゾン、キース・ジャレット、エグベルト・ジスモンチ、ヤン・ガルバレク、フランク・ザッパ、そうしてECMレーベルに出会った事です。
彼らの様な“進歩的”ミュージシャンに大いに共感していますが、高校の時に聴いていた、一聴“単純”な音楽も、今でも大好きです。だから、『昔は“ただのロック”を聞いていたが、もう卒業したよ』といった意見を全然理解できません。今でも、自信を持って、ブラック・サバスの音楽性を、キース・ジャレットやショパンの音楽と“同列”に論ずる事に、何も抵抗を覚えないのです。何故なら、それらの音楽すべてが、ジャンルに無関係に、私に深い感動を与えてくれるからです。


♪ ボスニアで生まれ、南イタリアで育ち、NYでビジネスに携わる


NS:Moon Juneでのレコード制作のほか、色々なアーティストのマネージメントも行っていますが、そのきっかけは?

LP:“アクシデント(偶然)”しかし、“運命”とも言えます。ファンが嵩じ、大好きなソフト・マシーンの再結成及びアルバム制作に加担しました。完全な再結成ではありませんが、元メンバーのアラン・ホールズワース、エルトン・ディーン、ヒュー・ホッパーとジョン・マーシャルで結成したソフト・ワークスというグループです。最初のアルバム『Abracadabra』(2003年:Tone Center)を日本でディストリビュートしようと模索している時に、日本の関係者から『PFM(注4)の事を知っているか?』と問い合わせを受けました。偶然、PFMのドラマーのフランツ・ディ・チョッチョと共通の友人が何人かいたので、彼に電話してみました。その当時、PFMは、ルガノ(スイス)でのコンサートを発売するために準備していました。しかし、彼らは、そのDVDの出来に満足しなかったのです。それを知り、『日本での公演をDVD化したらどうか?』と提案したのです。彼らは、乗り気になり、それが理由で、PFMの26年ぶりの来日公演に関わりました。川崎のクラブチッタでの3回のコンサートをもとにしたDVD及びCDを、ポニー・キャニオンより発売し、高評価を得ることが出来ました。その後、PFMのイタリア国外でのブッキングを担当してきています。

注4:PFM=Premiata Forneria Marconi(プレミアータ・フォルネリア・マルコーニ)は、70年代初頭、本場英国を凌ぐかのような盛り上がりを見せた、イタリアン・プログレッシブ・ロックを代表する名バンド。ロックのエネルギーを土台に、クラッシックの伝統やジャズからの影響を、イタリア的美意識で織り上げた、大胆かつ繊細な音楽性が特徴。1973年には、当時人気の絶頂にあった、ELP(エマーソン・レイク&パーマー)の後ろ盾で、世界進出を果たし、1975年に初来日。
平行して、ソフト・ワークスや、独立したアラン・ホールズワース他のアーティストのブッキングも始めました。例えば、ホールズワースの代わりに、同じく元メンバーのジョン・エスリッジが加入した“ソフト・マシーン・レガシー”というバンドの2回にわたる日本公演や世界ツアーを敢行しました。重要メンバーのエルトン・ディーンやヒュー・ホッパーの死を乗り越え、ソフト・マシーン・レガシーは、今でも精力的に活動しています。
特に、日本との関わりは深く、ざっと挙げると、PFM(2回)、アラン・ホールズワース(6回)、元フォーカスのヤン・アッカーマン(2回:オランダ)、ニュートロルス(2回:イタリア)、コロシアム(イギリス)、アルティ・エ・メスティエリ(イタリア)、バンコ(イタリア)、オザンナ(イタリア:元ヴァンダー・グラーフ・ジェネレーターのデヴィッド・ジャクソンをフィーチャー)、ラッテ・エ・ミエーレ(イタリア)、ゲイリー・ボイル(イギリス)、douBt(元キャラバン/ハット・フィールドのリチャード・シンクレアをフィーチャー)、元イエスのトニー・ケイ、元フランク・ザッパ/UKのエディー・ジョブスンやテリー・ボジオ、スコット・ヘンダーソン/ジェフ・バーリン/デニス・チェンバース他の日本公演を実現しました。
新しく設立した2 Plus Music & Entertainment では、プログレやジャズ系のアーティストに限らず、へヴィーメタル、ハード・ロック他のアーティストのマネージメント/ブッキングも担当していく予定です。


NS:アルバム制作にあったってのスタンスは?

LP:数枚のアルバムには“プロデューサー”として関わりましたが、個人的には、ビジネスサイドに重点を置く“イグゼクティブ・プロデューサー”が、適任だと思っています。楽器を弾いた事はありませんし、音楽的教育も受けていませんから。しかし、何千枚ものレコードを聞き込んできている事実、色々なタイプのアーティストと仕事をして来ているおかげで、音楽を聴く“耳”には、自信があります。幸い、私の提案に基づいて、数人のミュージシャンが素晴らしいアルバムを録音してくれました。ベッペ・クロベラの『What’s Rattlin’ On The Moon』やdouBtの『Never Pet A Burning Dog』等です。将来もう少しスタジオ・プロダクションに関わりたいと思っていますが、常にミュージシャンの自発性を尊重していきたいと思います。


♪ 音楽の便宜上の“区分け”を取り払いたい


NS: MoonJune レコードのスコープは? プログレッシブ・ロックやフュージョン系の作品が、多いように感じるのですが。

LP:断っておきたいのは、プログレ専門、フュージョン専門、そして“カンタベリー音楽(注5)”専門のレーベルを運営しているつもりは、毛頭ありません。MoonJuneのゴールは、“ジャズ”と“ロック”の狭間にある諸々のジャンルを超越する音楽/ミュージシャンのサポートにあります。世間一般の言い方を使えば、プログレ、エスノ・ジャズ、実験音楽、アヴァンギャルド、ジャズ・ロック、フュージョンという事になりますが、音楽の便宜上の“区分け”を取り払いたいのです。私の趣味を反映して、MoonJuneのリリースが、ジャズ寄りのプログレッシブ・ロック及び、プログレッシブなジャズに傾いているのは、認めますが。

注5:イギリス・カンタベリー地方出身のプログレッシブ・バンド/ミュージシャンや、彼らに関連/インスパイアーされた音楽集団。一概には言えないが、ジャズや実験音楽を取り込んだ即興性の強い、しかしウィットに富むポップ系アプローチも忘れないユニークなアプローチが特徴。代表的バンドとして、ソフト・マシーンの他、キャラバン、ゴング、ハット・フィールド・アンド・ザ・ノース、ヘンリー・カウ、エッグ、ナショナル・ヘルスやスティーブ・ヒレッジ。映画『エクソシスト』(1973年)のサントラに使われ大ヒットし、一躍新進のインディーレーベルだったVirginレコードを軌道に乗せた『Tubler Bells』(1973年)のマイク・オールドフィールドの所在も、カンタベリー系。


NS: MoonJuneのリリース予定は?

LP:去年(2011年)にMoonJuneは、10周年記念を迎えました。リリースしたアルバムは、45枚に上りました。近年、新規制作以外に、アラン・ホールズワースの旧作『None Too Soon』と『Hard Hat Area』をリマスター使用で再発しています。その他の彼のアルバムも、再発予定です。また、インドネシア出身の二人のギタリストのアルバムを今春発売予定です。トパティ・ベルティガの『Riot』とリグロの『Dictionary 2』(アガム・ハムザという素晴らしいサックス奏者をフィーチャー)というジャズ・ロック系の作品です。さらに“I Know You Well Miss Clara”という新人グループや、特異なイタリア人ヴォーカリスト=ヴォリス・サンドバリ率いるS.A.D.O.のデビュー作、Tohpati Ethnomission(インドネシア)、アヴァンギャルド・ロック・グループSH.TG.N(ベルギー)等の作品、また前作が何れも好評だった、The Wrong Object(ベルギー)、simakDialog(インドネシア)やDoubt(イギリス/ベルギー)の新作もリリース予定です。そして、アラン・ホールズワースの新作もついにリリースに至るかも知れませんので、ご期待ください。

*Alan Holdsworth/Alan Pasuqa/Jimmy Haslip/Chad Wackerman - Blues For Tony:
http://jazztokyo.com/five/five656.html
*Alex McGuire - Brewed in Belgium:
http://www.jazztokyo.com/newdisc/550/maguire.html
*Delta Saxophone Quartet - Dedicated to you…:
http://www.jazztokyo.com/newdisc/487/dsq.html
*Simak Dialog - Demi Masa:
http://www.jazztokyo.com/newdisc/600/simak.html
*Slivovitz - Bani Ahead:
http://jazztokyo.com/five/five865.html
*Slivovitz - Hubris:
http://www.jazztokyo.com/newdisc/605/slivovitz.html















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