#  105

Scott McLemore|スコット・マクレモア (Drummer)

スコット・マクレモア
1973年2月1日ヴァージニア州ノーフォークの生まれ。現在は、アイスランドの首都レイキャビックに居住するドラマー、作曲家、デザイナー。
16才の時にロックバンドでプロ・デビュー。1992年から1997年にかけて地元のオールド・ドミニオン大学やウィリアムス・パーターソン・カレッジ(NJ州)でジョン・ライリー、ヴィック・ジュリス、ルーファス・リードなどに付いてジャズを学ぶ。WPUでアイスランド出身のピアニストスーナー・グンラウグス(Sunna Gunnlaugs)と出会い、活動を共にするようになる。
1997年から8年間、NYに居住、NYダウンタウン・シーンで活躍、トニー・マラビー、ベン・モンダー、ベン・ストリートのカルテットでCD『Found Music』を残す。
2005年、拠点をアイスランドの首都レイキャビックに移し、スーナーのトリオやカルテットを中心に活動を展開。最新作にスーナーのトリオによる『Long Pair Bond』(Sunny Sky)がある。
http://www.scottmclemore.com/
http://sunnagunnlaugs.bandcamp.com/

Interviewed by 稲岡邦弥
2012年4月
Photos by HÖrður Sveinsson

♪ アイスランドにジャズ専門のクラブはない


JT:アイスランドのジャズ・シーンはどのように形成されて行ったのでしょうか?ヨーロッパやアメリカのジャズ・ミュージシャンがかなり頻繁に来訪したのでしょうか?

SM:僕は当然、アイスランドのジャズの歴史のエキスパートではないのですが、アイスランドでジャズを演奏するミュージシャンの歴史はそれなりに長いのです。例えば、ビョルク(Björk Guðmundsdóttir)と共演した名高いアルバム『Gling Glo』のピアニストGuðmundur Ingólfssonはミュージシャンの間でも偶像的な存在になっています。また、“ジョージ・ガーシュウィン的”存在としてJón Múli Árnasonの名を挙げることができます。この作曲家は5、60年代にミュージカルを作曲した人物で、アイスランドでは多くの曲がスタンダードになっています。当地のジャズ・クラブ/アソシエイション“Múlinn”は、彼の名に由来しています。


JT:ジャズを教える音楽学校もあるのですか?

SM:“リズミック”ミュージックを教える学校は各地にありますが、ジャズはそのカリキュラムの一部として教えられています。ジャズに真剣に取り組みたい人たちのためにはミュージシャンのユニオンが運営する学校があります。その学校を卒業すると多くの生徒は外国へ留学に出ます。


JT:ジャズ・クラブもありますか?

SM:ジャズは各地で盛んになりつつありますね。夏の間だけ期間限定でジャズを演奏させる場所はいくつかあります。「Mulinn」というジャズ・クラブは移動式で各地を廻っています。ジャズ専門のクラブというのは残念ながらありません。「Kex Hostile」という新興のクラブがなかなか有望ですが。


JT:ジャズ・ミュージシャンと呼べる音楽家は何人位いるのでしょうか?

SM:少なくともビッグバンドに匹敵するミュージシャンはいると思います。しかし、シーンを支えていくためには多くの優れたミュージシャンが必要です。クラブや仕事がないために、時には優れたミュージシャンが長い間演奏するチャンスに恵まれないとケースもあります。ですから、アイスランド国外へ出てツアーをする必要が出てくるのです。


JT:CDショップはありますか?

「12 Tónar」という名のCDストアが一軒ありますが、ここではジャズも扱っています。


JT:アイスランドではCDを聴いているのですか?それともダウンロードが多いのですか?

SM:今でもCDを買っているリスナーが多いですね。CDはほとんどオンラインで発注します。もちろん、ダウンロードも増えていますが、CDはそれなりにシェアを確保しつづけています。僕に限っていえば、最近は「Bandcamp」からダウンロードすることが多くなりました。単に便利だからという理由からですが。でも、やはりCDは好きでね。とくにグラフィック・デザインというバックグラウンドを持っていますので、僕とスーナー(註:パートナーのピアニスト)はデザインの優れたCDは現物を手元に置きたい欲求があります。


JT:ジャズ・フェスティバルはどうですか?

SM:いくつかあります。最大のフェスは8月に開催される「レイキャヴィック・ジャズ・フェスティバル」です。金融危機がありましたが、景気も徐々に回復しつつあり、今年のヘッドライナーは、ビル・フリゼールが予定されています。




♪ 日本でのたこ焼きは新しい発見だった


JT:来日した経験もあるそうですが...

SM:僕らは日本が大好きで、次の訪日が待ち遠しくて...。訪日は2003年で、「IceBlue」というアイスランドの文化行事にスーナーのカルテット(Loren Stillmanローレン・スティルマンとMatt Pavolkaマット・パヴォルカを帯同)で出演しました。そのときの出来事で忘れられないのは、僕とローレンがアイスランド大使にディナーでよばれた時のことでした。ゲートの外で待ち構えていた大使の通訳に駆け寄って僕がアイスランド語で話しかけ、ちょっとおしゃべりをしたのです。それを耳にしたローレンが「気が日本語をしゃれるとは思わなかったよ」というのです。僕はアイスランド語を使っていたつもりだったのにね。


JT:アイスランドと日本はどちらも島国ですが、何か共通点は見出せましたか?

SM:私の日本の印象、少なくとも東京の印象は聞きしに勝るものがありました。当時NYに住んでいた僕らにとってさえ、東京は規模と密度の点で衝撃的なものでした。文化の面では、日本とアイスランドは多くの点で共通するものがあると思います。両国とも豊かな文化を誇っており、伝統的なものから現代生活へのアプローチの仕方にも共通性を見出すことができます。細部や機微へのこだわり、異端に美を見出す性質も共通していますね。


JT:日本食はどうでしたか?たとえば刺身などは?

SM:寿司にはハマりましたし、たこ焼きは新しい発見でした。他にもいろいろ挑戦してみましたがどれも素晴らしかったです。残念ながら名前を思い出せないのですが。ということは、もう一度日本に戻って再挑戦してみる必要がある、ということですよね!


JT:日本のジャズ・クラブへは?

SM:残念ながら時間の余裕がありませんでした。東京の中をあちこち動いてはみましたけど。マットの日本人の奥さん、アキコが同じ頃東京に滞在していて、案内役を買って出てくれました。


JT:2011年3月に日本のギタリスト渡辺香津美がアイスランドの国立劇場でビョルン・トロッドセンと共演しましたが、聴きに出掛けましたか?

SM:もちろん、話題は知っていますが、当時は市内におらず公演そのものは聴いておりません。


♪ アイスランドではすべてが凍てついているわけではない


JT:年間を通じてどんな気候なのですか?

SM:皆が考えているよりは総じて暖かいですよ。皆は、アイスランドは酷寒で、すべてのものが凍てついている、と想像しているでしょうが、冬はとても温暖なのですよ。しかし、時に大雪に見舞われることもありますが、彼らは慣れていますので対応は完璧です。学校も大雪で閉鎖したことはありません。

四季に相当するものはありますが、自分がアメリカで体験してきた四季の変化よりはとても穏やかです。夏は決して暑くはならず、総じてとても快適です。湿度は低く、どこかサンフランシスコを思い出させますね。
四季で特徴的な現象といえば日照時間でしょうか。夏は24時間、日照があり、これに慣れるにはかなりの時間を要しましたが、これはこれで素晴らしい体験だと思います。反対に、冬はまったく日照時間がなくなるわけではないのですが、1月の日照時間は数時間と短いのです。


JT:ところで、2010年の4月から5月にかけて発生した火山の爆発はどんなものでしたか?

SM:首都のレイキャビックで被災した人はほとんどいませんでした。ヨーロッパ各国ではほとんどすべてのフライトが欠航になりましたが、アイスランドの空港で閉鎖になったところはありませんでした。私自身もスペインに出掛ける必要があり、帰国が心配でしたが、幸い無事フライトをキャッチすることができました。


JT:例の経済危機はその後どうなりましたか?

SM:IMFが最近レイキャビックで主催した経済会議での経済学者ポール・クルーグマンの発言によると、アイスランドは経済危機から回復する方法を世界に示す手本になるべきであると。そのことについてはアイスランドの中でも種々の議論が喧しいのですが、予想された最悪のシナリオからは免れてすでに底は打ったと。投資や創造活動よりも緊縮財政を打ち出した諸国の方がむしろ悪化の道を辿っていますね。


JT:オーロラは簡単に目撃することができるのですか?たとえば1年に何日位の確立になるのですか?

SM:正確には分かりませんが、冬期には毎夜見ることができる場合があります。時にはそれほど鮮明でない場合もありますが。


JT:ビョーク(Björk Guðmundsdottir=ビョーク・グズムンズドッティル)のお国での評判はどうですか?

SM:彼女は素晴らしい存在です。アイスランドでは余り演奏活動がありませんが、公演があれば、チケットは数分で完売です。お陰で僕はいまだに一度も彼女の生を聴いたことがありません。


♪ CD『ロング・ペア・ボンド』のトリオで来年は米国ツアーがある


JT:あなた自身も含めて、ピアノのスーナーとベースのソルグリムールについても簡単に紹介願いますか。あなたたちは音楽だけで生活が成り立っていますか、あるいは生活資金を稼ぐために何か他の仕事を両立させていますか。たとえば、スーナーとあなたはデザインの仕事も兼務しているのですか。

SM:僕らは3人ともそれぞれ楽器を演奏する他に生徒にレッスンを付ける仕事をしています。例えば僕自身の場合は、週に2日間ドラムを教えていますが、その結果、残りの日を僕自身の音楽キャリアの展開に当てることができています。スーナーと僕は自分たちの音楽プロジェクトを展開する以外は、最近はあまりデザインの仕事はしておりません。

たしかにNYに居住している間は僕らはデザインに大変興味を持っていました。
当初はNYの高い家賃を支払うためにデザインの仕事を始めたのですが、そのうちにデザインそのものにとても興味が出て来たのです。スーナーはデザインで学位を取り、アイスランドに戻った当初は広告会社でデザインの仕事に従事していました。僕自身はNY時代はHyperaktという良く知られたデザイン会社で仕事をしていました。当時はミュージシャンとデザイナーの仕事を両立させていたのですが、アイスランドでは音楽に専念するようになったのです、時にはデザインの仕事を受けることもありますが、音楽と同じようにデザインの世界でも先端にいるためにはそれなりの努力を継続する必要があるのです。


JT:CD『ロング・ペア・ボンド』で演奏しているトリオは、ヨーロッパでも演奏する機会があるのですか?

SM:トリオはドイツのフェスティバル「Jazz Ahead」に出演して帰国したばかりです。キース・ジャレット・トリオのライヴ録音が行われたブレーメンのセンデザールでわれわれのトリオがフィーチャーされたのです。スーナーのカルテットで何度もヨーロッパ・ツアーに出掛けたことがあります。今はちょうど来年のトリオ・ツアーをブッキングしているところです。
来年の6月には米国ツアーがありますが、サンフランシスコから西海岸をシアトルまで北上し、デトロイトを経由してNYに入り、東海岸をワシントンからボルチモアまで南下する旅です。広域的には最大のツアーになりますので、とてもわくわくしております。


JT:あなたの夢は?

SM:娘たちが成長し、いつの日かツアーに同行して家族で世界を見聞して廻ることです。








♪ スーナー・グンラウグスは生粋のアイスランド人


JT:パートナーのスーナーに自己紹介願います

SG:アイスランドの首都レイキャビックで生まれ、セルチャーナーネス(Seltjarnarnes)という郊外で育ちました。幼少の頃からオルガンを弾いていたのですが、中断の後、18才からピアノを始めました。クラシックの正規の教育を受けたことはなく、ジャズ・ピアノはアイスランドのミュージシャンズ・ユニオン・スクールとアメリカ・ニュージャージー州のウィリアム・パターソン・カレッジで学びました。
アメリカでは12年間生活したことになりますが、学生時代はNYに近いニュージャージーで、卒業後にブルックリンに移り、8年間過ごしました。2005年、子供が欲しくなり、子供の養育には相応しくないNYを出てアイスランドに戻る決心をしました。
私の夢はささやかなものですが私にとってはとても大事なことで、良い家庭生活を送り、音楽で生計を立てる能力を持つことです。現状にはかなり満足しておりますが、さらに演奏能力を高める努力を続けながら、家庭生活にももっと時間を割けるようになりたいというのが夢ということになります。

*CDレヴュー
http:// JAZZTOKYO/five/five913.html


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COLUMN
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