Live Report#422

FOOD feat.Nils Petter Molvaer+巻上公一 横浜公演
2012年4月20日(金) 横浜@BankART Studio NYK
Reported by 伏谷 佳代 (Kayo Fushiya)

FOOD:
Thomas Stronen (トーマス・ストローネン;ds, electronics)
Iain Ballamy (イアン・バラミー;s.sax, t.sax)
Nils Petter Molvaer ( ニルス・ペッテル・モルヴァル;tp, electronics)
巻上公一(ヴォイス;テルミン)
神田佳子(パーカッション)
中村仁美 (篳篥)

BankARTを訪れたのは数年ぶり。この日はあいにく雨降りだったこともあり湿度はかなり高かったのではないか。それが屋内のコンクリート打ちっ放しスペースにいかほどの影響をおよぼすのかは不明だが、この日の音響はしっとりと濡れそぼるような曳きが。あのECM独特のリバーヴ効果を呼び覚ますのにうってつけの環境だったように思う。音が求心し、垂直にたちのぼっては溢れんばかりに降り注ぐ...それは皮膚全体で受け止める音楽であり、まさに「体感」という言葉がしっくりと来る。

FOODは言わずと知れたサックス(バラミー)とドラム (ストレーネン)によるユニット。ツアー全体を通してゲストとして参加しているのはトランペット(モルヴァル)とテルミン(巻上)、今回の横浜ではさらに篳篥(中村)とパーカッション(神田)が加わる。はたと気づくのが、すべてブレスとアタックによる編成だということで、いかにも現代音楽の延長線上に位置づけられる気もする。吸入と吐き出し(叩き出し)という実にシンプルな生命活動で音楽することの無限を問う...一瞬は拡張されては連結される。それに立ち会うライヴである。実際、トランペットもサックスもドラムも、ルーパーやらラップトップやらスピーカやらにびっしりと接続され、何やら延命中の肉体を彷彿とさせる。生楽器を人工的に抉(えぐ)りだすことで、逆にはかなくも得難い生の輝きが強調されるように。「なぜそこまでやるのか」という問いの先にあるのが、牧歌的にして無国籍、時制不明の憧憬に彩られながら、その瞬時の冷却力において鋭い刃を剥くFOODの音楽。その世界を現出せんが為の、すべての労苦。理想主義というべきか、知的というべきか。さんさんと降り注ぐ複数の豊穣な音のヴィジョンと、目の前で繰り広げられている痛々しい解体風景が容易には結びつかない。耳と目が分離される、一種の攪拌体験にちかいが、黙々とクールに場面は展開される。

しかし、これは3部構成であったライヴでの、FOOD+モルヴァルの演奏(第2部)で感知されたことで、内容的には最新のアルバム『Quiet Inlet』(ECM:2010)と大体被る(バラミーのサックスよりも、モルヴァルの空間制御力が頭ひとつ分抜けているように感じられる。音楽にメリハリや「染み」を残すのはモルヴァルであり、それはマイクから外れた完全アコースティック状態のときでも変わらない)。  

第1部はゲストである神田佳子、中村仁美、そして巻上公一のデュオ・ソロ・トリオでの演奏だったが、北欧勢が醸し出す夢幻の世界とははっきり異なる歩みで音の像が結ばれてゆく。FOODが、どちらかといえばエレクトロニクス寄りの生音であるのに対し、神田・中村はほぼ完全生音勝負。神田佳子の演奏は、小技が冴えながらも、大元では非常に腰の据わりのよいリズム感覚がある。時に縦ノリとも感じられる大局的なダイナミズムは、中村の篳篥が大きくワープしつつ縦横無尽に切り込んでくるのを淡々と捌(さば)く。実際、篳篥の容赦ない音圧と強烈な音の拡充には驚くばかりで、それはバグパイプを聴いたときの印象にも近いものがあるが、民族特有の音楽がもつ、個性を超えたところにある共通項だろうか。何の小細工も施し得ないほどのこの小さな楽器を、完全に血肉化している中村の手腕に唸る。最後のトリオでは、マウスピースに相当する葦舌(した)を自在に用い、ひしゃげたような距離感で巻上公一が生み出す強い気圧に絡んでゆく。テルミンも含め、空間を切り取り歪める一瞬の息づかいに、紛れもなく極東(日本だけに限らず)ならではの感性が強烈に滲む。北欧の理想郷とはまた違った、広大な風景がそこには広がっている。

第3部はデュオ3通りのあと、最後に全員でセッションするというものであったが、やはりそれぞれのポエジーがとめどなく湧出するモルヴァルと中村仁美のデュオが個人的には印象にのこった。テクニックや手癖の差異を際立たせるというゲーム的なものではなく、トランペットのタンギングも篳篥の音程の狭さも、すべて濾過されては、蜃気楼のような風景をぱっと生み出す。巻上公一はあらゆる編成で一貫してパワフルな完成度をみせていたが、やはり最後のヴォイスが圧巻。身体性の収縮・拡張の一大絵巻のようなこの日のライヴにあって、実は一番の地雷は内臓にあり...と一気に毒を吐くようなユーモアに溢れていた(*文中敬称略。Kayo Fushiya)。



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