Concert Report#423

第14回チャイコフスキー国際コンクール
優勝者ガラ・コンサート
2012年4月23日 @サントリーホール
Reported by 丘山万里子
Photos by林 喜代種

演奏:
ピアノ/ダニール・トリフォノフ
ヴァイオリン/セルゲイ・ドガージン
チェロ/ナレク・アフナジャリャン

曲目:
vl&pf/チャイコフスキー「なつかしい土地の思い出 作品42」より<瞑想曲>
<メロディ>、「ワルツ・スケルツォハ長調 作品34」、(アンコール)タイス「瞑想曲」
vc&pf /シューマン「幻想小曲集 作品73」、ラフマニノフ「ヴォカリーズ 作 品34-14」、パガニーニ「ロッシーニのオペラ<モーゼ>の主題による変奏曲」
(アンコール)エルガー「愛の挨拶」
pf/ドビュッシー「映像第1集」<水に映る影><ラモーを讃えて><動き>、ショパン「12の練習曲 作品10」全12曲
アンコール:
pf,vl,vc/ドヴォルザーク「ユーモレスク」
pf/シュトラウスのオペラ「こうもりヴァリエーション」(トリフォノフ編曲)

その桁違いのスケールに、ただただ唖然とするトリフォノフ

 大変な若者が出てきたものだ。ピアノのダニール・トリフォノフ(ロシア)。チャイコフスキー・コンクールの覇者は大勢いるが、飛び抜けて凄い才能、と唸ってしまった。同じく今回、ヴァイオリン第2位(1位なし)のセルゲイ・ドガージン(ロシア)、チェロ第1位ナレク・アフナジャリャン(アルメニア)もその腕を披露したが、トリフォノフは出突っ張りで彼らの伴奏を務め、それぞれのアンコール曲にも付き合ったのち、いざ、とばかり自分の演奏にとりかかり、ドビュッシー「映像」3曲とショパン「練習曲」全12曲を一気呵成に弾いたのである。そののち、さらにアンコールに応え3人でのピアノ・トリオを。それでおしまいかと思ったら、最後になんとトリフォノフ自身の編曲による「こうもりヴァリエーション」で度肝を抜き、当夜のガラ・コンサートを締めくくったのであった。
 凄すぎる。何がといって、伴奏者として、あるいは室内楽奏者としての類いまれな資質。一方で、シュトラウスのオペラ「こうもりヴァリエーション」で見せた、強烈なパッションと目が回りそうな技巧の数々。加えて編曲の腕の確かさ。その桁違いのスケールには、ただただ唖然とした。
 ヴァイオリンやチェロの伴奏では、あくまでソフトに相手を際立たせ、決して自己主張をしない。ほとんどピアニシモか、せいぜいメゾフォルテくらいのゾーンで優しくサポートし、この人のダイナミック・レンジは、昨今、流行の弱音奏者か、と思わせる。とにかく、ヴァイオリンにしろチェロにしろ、彼のピアノのうえで、気持ちよく歌い、ドガージンのしっとりとしたリリシズム、アフナジャリャンの清白なポエジーをうまく引き出し、技巧の見せ所にも見事に寄り添う。こんなに優れた伴奏をされれば、ソリストもさぞかし幸福だろうと思う。
 3人とも弾き終えるとあちこちにお辞儀するところがなんとも初々しく、思わず聴衆から微笑がもれる。
 いよいよ自分の出番、と椅子に座った彼は、まず「映像」の<水に映る影>のうつろう水面を、モネのような色彩で描き出す。その繊細きわまるタッチとペダリングの妙は印象派の絵画を見るようだ。一方、第3曲の<動き>では、その無窮動の音型をいかにも若々しいグルーブ感で弾き上げる。ショパンは一編の抒情詩のように細心の構成で12曲を編み上げたが、最後の<革命>では思いきり、内なる情熱を爆発させて、仁王立ちとなった。
 だがそれで終わらないのがこの人のとてつもなさ。アンコールの「こうもり」は、ピアノでしか表現できない練達のオーケストレーション(?)をまざまざと見せつけ、ピアノを轟々と鳴らし、それまでの優美さ(彼のフォルティシモはショパンでもあくまでまろやかだったのだ)は何処へ、と呆気にとられる。タイトな身体でピアノに挑みかかるその姿と、時に刃(やいば)のように繰り出される音の飛礫(つぶて)、あるいは噴火する響きの奔流のなかに、「こうもり」の旋律が現れては消えてゆく。まさに快刀乱麻のヴァリエーションであった。このアンコールを聞き逃した人は、トリフォノフの何たるかを知ることなく終わってしまったと言うべきだろう。
 いやはや。他の二人がすっかり霞んでしまったのも致し方なかろう。もちろん、二人とも優れた演奏家に違いなく、それぞれの美点も充分に味わわせてくれたのだが...。
 それにしても、トリフォノフは21歳、他の2人は23歳とまだ若い。今後が楽しみな3人だが、やはりトリフォノフは群を抜く悍馬で、彼が今後どこへ行くのか目が離せない。  











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