Concert Report#427

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン/熱狂の日音楽祭2012
2012年5月3〜5日 @東京国際フォーラムその他
Reported by 丘山万里子
Photos by 三浦興一

 5月の連休の3日間、すっかり初夏の風物詩となった「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」。今年は初日の雨にもかかわらず、およそ36万人の聴衆が集まったという。国際フォーラム 、よみうりホールでの公演は約350公演(うち有料公演159)、出演者総数は1780人というから、大規模なものだ。どれもほぼ45分と聴きやすい長さでS 席でも3000円と廉価。公演によっては0歳、3歳、6歳からの子供たちの入場も許される。またキッズ向けのワークショップや出演者のマスタークラス、講演会など、盛り沢山の内容。赤ちゃんの授乳室や託児所も用意されるなど、きめ細かな配慮の行き届いた運営ぶりである。
 筆者は3日間通ったものの、所用で5公演しか聴けなかったが、初日、JR有楽町を下車したら、かなりの雨足のなか、びっしりと傘の花が咲いているのには驚いた。チケット売り場は長蛇の列。熱心な聴衆の熱気が伝わってくる情景であった。
 今回のテーマは「サクル・リュス」(ロシア音楽の祭典)。チャイコフスキー、プロコフィエフからシュニトケなど62人のロシアの作曲家の作品が並んだ。

 筆者が聴いたのは、初日、アレンスキーの『ピアノ五重奏曲』(B・ベレゾフスキーpf、S・モロズvl 、M・グートマンvl 、E・パクvla、H・ドマルケットvc)とシュニトケの『ピアノ五重奏曲』。ベレゾフスキーのピアノが際立つ演奏で、とりわけシュニトケの第1楽章や第3楽章などに見られるピアノの、鐘を思わせる動一音の連打とそれにからむ弦が印象的な作品である。アレンスキーも、マーラーを思わせるロマンと諧謔性、リリシズムとダイナミズムの交差が生き生きと活写された。
 この日は地上広場でのロシア民族カルテット、テレム・カルテットの民族性豊かな曲目も披露され、手拍子の湧く楽しさが横溢した。
 次にホールで聴いたのは「ルネ・マルタンのル・ク・ド・クール」。この音楽祭のアーティスティック・ディレクター、ルネ・マルタンのおすすめコンサートである。マルタンの司会で、最初に新人ピアニスト、A・ラムールによるプロコフィエフ『ピアノソナタ第7番』より第3楽章。ダイナミックに音を響かせ、他の楽章も聴きたいと思わせた。次いで、珍しいチェロの指揮(A・ルーディン)による初来日のムジカ・ヴィーヴァでチャイコフスキー『ロココ風の主題による変奏曲』。チェリストが真ん中に座り、時に手を振ってオーケストラを指揮する。アイ・コンタクトが難しいと思えたが、コンサートマスターに指示を送り、見事なアンサンブルを聴かせた。が、この日の白眉は何と言っても500年あまりの歴史を誇るカペラ・サンクトペテルブルク合唱団(指揮V・チェルヌチェンコ)による合唱作品だろう。長らく禁止されていたロシア正教の聖歌は、民衆の間でひそかに歌われていた。その聖歌も含め、ラフマニノフ、スヴィリドフ、チェスノコフらの作品は、厳粛ななかにもロシア特有の力強さを備え、交互にステージに立つソプラノからバスにいたるまでのソリストたちの歌声もひときわ光を放ち、居並ぶ合唱団が光背のように彼らを包み込んだ。鈴やタンバリン、トライアングルなどを使った田園的な作品はロシアの広大な大地を思わせ、土の香りをふんだんに運んできて、のどかな風景を目前に拡げたのであった。

 4日は、このところ注目度を上げてきた松山冴花のヴァイオリン。シュニトケ『古い様式による組曲』、チャイコフスキー『憂鬱なセレナード』(ヴァイオリン・ピアノ版)ストラヴィンスキー『イタリア組曲』はみっしりと目の詰んだ響きと濃やかなニュアンス、とりわけ装飾音の美しさが印象に残る。中高音の充実と低音の深い響きがどの作品にも通底し、なるほど将来が期待される人材と思った。A・スマンpf。

 5日は、やはりヴァイオリンの庄司紗矢香を中心としたショスタコーヴィチの2曲。 彼女もまだ若いが、すでにキャリアを積んだヴァイオリニスト。『ヴァイオリンとピアノのための前奏曲』を軽やかに、また繊細に弾き込み、その安定した語り口で聴衆を魅了した。
 が、圧巻は次の『ピアノ三重曲第2番』で、堂々たる体躯のピアノが打ち鳴らす打楽器的な強音に決して臆することなく、チェロとともに渡り合い、とりわけアレグロ・コン・ブリオでは輝かしくヴィヴィッドな演奏を繰り広げ、喝采を呼んだ。P・マンゴーヴァpf、T・ヴァシリエヴァvc。

 この音楽祭の特徴は、赤ちゃんから大人まで楽しめるコンサート作り。子供連れを多く見かけ、まさに老若男女入り交じっての聴衆が祝祭的気分を盛り上げる。クラシックのコンサートは、どちらかというと中高年が主だが、この音楽祭に限っては、ペアで楽しんだりする若者たちが多く、若々しいエネルギーが伝わって来る。筆者が聴いた公演は「ルネ・マルタンのル・ク・ド・クール」以外、ほぼ満席であった。
 食べ物を売る屋台。並んだパラソルの下で、のんびりとお目当ての公演を待つひととき。 次から次へと息つく暇も無くコンサートをはしごする人々。楽しみ方はそれぞれ。それがこの音楽祭の良さだろう。ひとたび、足を運べばやみつきになる。うなぎ上りの入場者数がそれを物語っている。3日間を通しての賑わいに、なんとなく意を強くした祭典であった。  


ベレゾフスキーpfその他


テレムカルテット


(ルネ・マルタンのル・ク・ド・クール
アダム・ラムールpf


(ルネ・マルタンのル・ク・ド・クール)
A・ルーディンvc指揮ムジカ・ノーヴァ


(ルネ・マルタンのル・ク・ド・クール)
V・チェルヌチェンコ指揮カペラ・サンクトペテルブルク


(キッズプログラム)
耳と体で聴こう!!ショスタコーヴィチ!!



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