Live Report#452

ブラッド・メルドー・トリオ
2012年7月27日 @サントリーホール
Reported by 稲岡邦弥
写真提供:ハーモニージャパン

ブラッド・メルドー(p)
ラリー・グレナディア(b)
ジェフ・バラード(ds)

セット・リスト:
Great Day (Paul McCartney)
Friends (Brian Wilson)
Sanctus (Brad Mehldau)
And I love her (Lennon/McCartney)
Ten tunes (Brad Mehldau)
My Valentine (Paul McCartney)
アンコール:
Untitled (Brad Mehldau)
Holland (Susan Stevens)
Cheryl (Charlie Parker)

じつにゴージャスな一夜だった。当夜の聴衆のだれがこのような演奏を予期していただろう。このセット・リストを眺めて歯ぎしりしているファンも多いのではないだろうか。
僕自身、とうに締め切りの過ぎた時点、というか更新日その日の午後、この原稿を書き下ろしている。編集者の特権として。あえて書かざるを得ない気持ちに駆り立てた当夜の演奏だったのである。
『オード』という相当気の入った新作をリリースしたばかりである(http://www.jazztokyo.com/five/five921.html)。“発売記念”とは謳っていないものの、誰もが新作を中心としたプログラムを組んでくるに違いないと踏んでいたに違いない。1曲目にポップなメロディが紡ぎ出され、それがいつものように果てしない旅の始まりとなる。ラリーが時々カウンターを付け、ジェフはあくまでパーカッション的なドラミングでサウンドスケープを広げる。
前回の来日時にこのトリオを聴いたのは新宿のオペラシティだった。2階の正面席だったのだがトリオがひとつの音楽世界として聴こえて来ず、3者の演奏がそれぞれ独立して耳に届き、とても歯がゆい思いをした。サントリーホールは昔から大好きなホールなのだが、この夜も彼らの想いを思う存分届けてくれた。ホールの機能としては当たり前のことなのだが、トリオがひとつの世界として成立している。
メルドーが、天井のサス(照明)が暑いから光量を落としてくれ、と何度もアピールするのだが、何を慮ってか照明がなかなか落ちない。メルドーがジャケットを脱げば解決するように思えるのだが、サスはメルドーの頭の天頂を狙っているのでそうはいかないのだ。
演奏が始まるとメルドーは何事もなかったかのようにまた自分の世界に没入していく。3曲目<アンド・アイ・ラヴ・ハー>のイントロでそれと気づいた聴衆から遠慮がちな拍手が出る。今夜のメルドーは徹底的に和みの世界を現出させる。穏やかに、滑らかに、しかし密度濃く。少しは冒険をしてスリルを味合わせて欲しい、という気もあるのだが、一方ではこの至福の世界に浸っていたいという気持ちもある。
4曲を終えたところで曲の紹介があったがすでに1時間は経過している。その後1曲、オリジナルを交えたが、本編の最後はマッカートニーだ。ポールの最新作『キス・オン・ザ・ボトム』から。ポールが70歳の記念に4ビートを楽しんだアルバムである。ここで聴衆の誰もが気づく。そうか、この夜の演奏はメルドーからポール・マッカートニーへのサリュートだったのだ。ポール70歳。ビートルズ結成50周年。ロンドン・オリンピックのオープニング・セレモニーでは、ポールが<ヘイ・ジュード>を歌った。彼にとってまさに<グイレイト・デイ>だったのだ。
アンコール2曲目の<ホランド>は、最近ブルックリンから出た歌姫スーザン・スティーヴンスの美しい曲、とアナウンスがあった。バラード、あるいはバラード的タイムに終始してきたコンサートの最後に1曲ストレート・アヘッッドがきた。そこで初めてラリーとジェフの思う存分のソロが披露された。そのためのパーカーだったのだ。
3.11以降、疲れ切っている僕らへの癒しとポール・マッカトニーへのサリュート、メルドーはそのことにはひと言も触れなかったが彼の思いは充分過ぎるほど伝わってきた。











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