Tak. TokiwaのJazz Witness No.9 2022年、晩夏のNYC

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Photo & Text By Tak. Tokiwa  常盤武彦

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2022年の8月下旬に、3年ぶりにニューヨークを訪れた。コロナ・パンデミックを経て、ニューヨークのジャズ・シーンは、55Bar、Jazz Standardなどはクローズしたが、また新たなヴェニューが、ブルックリン、ブッシュウィック地区にオープンした。詳細はJazz Japan 147号に寄稿したので、参照されたい。Smallsのオーナーでピアニストのスパイク・ウィルナーが語った「ジャズは舗装の隙間から伸びる雑草の如く、摘み取っても、また伸びてくる。いつの時代もどんな困難も克服してきた」を、実感することができた。ニューヨークの8月の最終週の週末は、チャーリー・パーカーの生誕を祝してチャーリー・パーカー・ジャズ・フェスティヴァルが、開催される。始まった当初は、チャーリー・パーカーと共演したゆかりのミュージシャンを迎え、パーカーが1950年代に暮らしたアパートの向かいにある、トンプキンス・スクエア・パークで1日だけ開催されていた。今や、金曜夜、土曜の午後は、ハーレムのマーカス・ガーヴェイ・パーク、日曜日はトンプキンス・スクエア・パークで10バンドが登場し、ワークショップ、映画上映など関連イベントも行われる、ニューヨークの夏の終わりを彩るイヴェントへと成長した。パーカーと共演歴のあるアーティストは少なくなったが、毎年、最終日のトンプキンス・スクエア・パークのコンサートには、功なり名をなした大ヴェテランが登場する。今年は、晩年のジョン・コルトレーン(ts,ss)と行動を共にし、人種差別問題にも音楽で激しく主張した、フリー・ジャズの闘士、アーチー・シェップ(ts,vo)が登場した。若手No.1のシンガー、セシル・サルヴァント・マクロリンと、才人ジェイソン・モラン(p)に支えられてステージの現れたシェップは、サックスを吹き、渋いヴォーカルを聴かせてくれた。往年のオリジナルの“Steam”や、トラディショナル・ブルースがプレイされる。そのサックスは、かつての片鱗を窺わせる瞬間もありながら、かなり厳しいものがあったが、味のあるヴォーカルは健在だった。写真編集をしているときに気が付いたのだが、ヴォーカルや、サックスをプレイするシェップは、滂沱の涙を流していた。かつて来日時に、中平穂積氏が所有する1966年のニューポート・ジャズ・フェスティヴァルの身近に8mm映像を見た時に、涙が溢れてよく見られず、中平氏にもう一度上映することを、お願いしたというエピソードが思い出される。久々のニューヨークの大観衆を前にした演奏、モラン、マクロリンの暖かいサポートに、感極まったのかとも思われる。ソニー・ロリンズ(ts)、ルー・ドナルドソン(as)ら大ヴェテランは、演奏活動から身を引いて隠遁した。やや世代の若いアーチー・シェップ(ts)だが、引退の花道だったのかもしれない。

 

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ニューヨーク滞在の最終日、友人のトロンボーン・プレイヤー、ライアン・ケバリーから、パワー・ステーションでのレコーディング・セッションに誘われた。この週は、5日間、ダーシー・ジェイムス・アーギューのニュー・アルバムのレコーディングが行われていて、ケバリーも、その中枢メンバーとして参加していた。かつてはマンハッタン内には、多くのスタジオがあり、毎日レコーディングが動いていたが、今や、パワー・ステーションと、シェア・サウンドぐらいになってしまった。パワー・ステーションには、1990年代に感じていた熱気が戻ってきていた。コンテンポラリー・ジャズ・ラージ・アンサンブル・シーンにおいて、ポスト・マリア・シュナイダーの筆頭である、アーギューのサウンドは刺激的で、ニュー・アルバムのリリースが待望される。ランチ・ブレイクの間、地下のスタジオにいる友人のサイモン・C・F・ユーに連絡する。ユーは2010年ごろから、ギタリストとしての活動と並行して、ヴィデオ・アーティストとしてのキャリアもスタートさせ、今や、スナーキー・パピーや、上原ひろみ(p)らのPVを手がけている。

パワー・ステーションは、アヴァター・スタジオとして稼働していた2017年にバークリー音大に買収された。オリジナルは、1977年に変電所(パワー・ステーション)を改造して作られ、数々の伝説的なアルバムが録音されたニューヨーク随一のレコーディング・スタジオである。現在は、コマーシャル・スタジオとして稼働しながら、バークリー音大のミュージック・プロダクション科の一年間のマスターコースの教育施設としても使われている。ユーは、そのヴィデオ、ストリーミング部門の担当として、母校に招聘された。そのユーが、自ら手がけた施設をガイドしてくれた。2017年の買収後、バークリー音大は、パワー・ステーションに大規模なリノヴェーションを施した。最新のデジタル・レコーディング施設に加え、ヴィデオ、ブロードバンド・ストリーミング配信にも特化したスタジオへと生まれ変わる。パンデミック下では、ニューヨーク市からの助成金も、投入されたという。地下のスペースから、全てのスタジオをリモート撮影できるコンソール・ルーム。100人ほどの観客を入れてストリーミングが可能なスタジオ、教室と、アヴァター・スタジオ時代にはなかった設備が充実していた。現在の状況を鑑みると、コマーシャル・スタジオだけでは、このような設備を建設することは、不可能に近いが、教育機関としての側面を併せ持つことによって、実現したと思われる。生まれ変わったパワー・ステーションから、今後どのような音楽が発信されるか、注目される。

 

常盤武彦

常盤武彦 Takehiko Tokiwa 1965年横浜市出身。慶應義塾大学を経て、1988年渡米。ニューヨーク大学ティッシュ・スクール・オブ・ジ・アート(芸術学部)フォトグラフィ専攻に留学。同校卒業後、ニューヨークを拠点に、音楽を中心とした、撮影、執筆活動を展開し、現在に至る。著書に、『ジャズでめぐるニューヨーク』(角川oneテーマ21、2006)、『ニューヨーク アウトドアコンサートの楽しみ』(産業編集センター、2010)がある。2017年4月、29年のニューヨーク生活を終えて帰国。翌年2010年以降の目撃してきたニューヨーク・ジャズ・シーンの変遷をまとめた『New York Jazz Update』(小学館、2018)を上梓。現在横浜在住。デトロイト・ジャズ・フェスティヴァルと日本のジャズ・フェスティヴァルの交流プロジェクトに携わり、オフィシャル・フォトグラファーとして毎年8月下旬から9月初旬にかけて渡米し、最新のアメリカのジャズ・シーンを引き続き追っている。Official Website : https://tokiwaphoto.com/

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